sweet words of love.
こちらは美珠が書く、恋愛小説ブログサイトです

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告

Lipstick on someone's collar:1

「桐嶋部長、異動だそうです」

「は?」

「ですから、異動です、桐嶋部長」

 やや肉感的な唇がにこりと笑って、淡々と言った。

 それを聞いて、情報処理部門部長の桐嶋藍獅は、口の端だけで笑ってみせる。

「時期じゃないな、誰が人事異動したんだよ? 抜けられたら困る部下だっているのに」

「ふざけてます? 部長の、ですよ」

 サインを書くために走らせていたペンの手を止めて、まだ笑ったままの表情を見た。

「……今度はどこだよ? 言っとくけど、本社は却下だぞ、佐々木」

 秘書課の佐々木京香は、入社時から秘書課勤務の美人。結婚しているが、まだ子供はいないためか、三十過ぎても若々しかった。

「篠原さんが帰って来られます。末永くよろしく藍獅、だそうですよ」

 新たな書類を出しながら、そう言って笑顔を浮かべた。

「壱哉が帰ってくる、か。時期じゃないな、これも。……で? 俺は今度はどこに異動? 壱哉の代わりに本社はごめんだからな」

 書きかけのサインを書き終えて、藍獅は書類をトン、と揃えた。それを佐々木に渡すと、当たり前のように手を出して受け取った。

「末永く、と篠原さんが言ったとおり、日本支社のままですよ。いつかはまた、他の支社へ、ということもあるかも知れませんけど。先ほど、人事部の神田さんから仮の辞令を受け取りました。どうぞ」

 人事部の神田、と言われてもピンと来ないが、仮の辞令、というのを受取って、それを見て。

 眉をしかめたのはしょうがないことだった。

「なんだこれ?」

「篠原さん直々だそうです」

「なんで壱哉が直々にこんなことするんだ? 支社長にでもなったのか?」

「その通りです。本社からの辞令で、支社長に抜擢され、戻ってこられる、と」

 佐々木を見ると、嘘か本当か分からないような笑みを浮かべている。というか、いつも藍獅の前ではこんな表情ばかりで、正直ため息が出る。

「お前、俺のこと嫌いだから悪戯してないだろうな?」

「人聞き悪いですね。私は桐嶋部長に悪戯なんてしたことありませんが」

 ため息をつきながらそう言うが、そうとしか思えない内容に、こちらもため息が出る。

「書類チェックとサインと、辞令の返事を篠原支社長によろしくお願いします」

「電話でいいのか?」

「篠原さんはこちらへ帰ってくるので、残務処理で忙しいみたいです。書面で返事を、とのことでした。で、その書類はこちらです。神田さん、待ってますよ」

 書類を机に置かれて、また書類か、と思う。

 部長になって四年。本当につまらないポストに就いたと思う。毎日書類にサインと判を押して、そして会議と、部下の管理。もう辞めてやろうか、と思っていたのにこれでは辞められないじゃないか、と心の中で愚痴る。

「人事部が待っているなんて。俺が拒否するとか、そういうの思わないのか?」

「篠原さんが、拒否するのであれば、直接交渉をする、と人事に言ったそうです」

「強引だな、あいつ」

「それだけ、頼りにされてます」

 光る唇が弧を描いているのを見て、煽てが上手いな、と思う。

「秘書は大変だな。上司を褒めて讃えなくちゃならないなんて」

 口ではそう言いながらも、さっさと承諾の返事を書いて、佐々木に渡す。

「誉め讃えているわけではないですよ。桐嶋さんは事実、篠原さんの隣にいて遜色ないと思いますから」

「はいはい。どうもありがとう、佐々木。人事部、待ってるんだろ?」

 頷いて、受け取った書類を見て、そしてこちらを見た。

「相変わらず、癖の強い字で」

「右上がりと言いたいんだろ? 読めると思うが」

 そう言って、立ち上がって、少し伸びをした。書類整理でさすがに疲れて、そろそろニコチンも尽きてきた。そして、どんな人事部の社員が来ているか、と思い、スイッチを押して窓のスクリーンをオフにした。プライバシーのためか、スイッチ一つで窓がすべて黒になる特殊なガラスを使用している。これはこれで気に入っているが、初め見た時はさすがに驚いたものだった。

 そうして待っていると言う人事部の神田を見て、思考が声で漏れた。

「……エロい女」

「……どこがです?」

 佐々木から答えられて、自分の考えを口にしていることに気付く。そうして気を取り直して、藍獅は指をさした。

「足首からストッキングが伝線してる。それに前スリットのタイトスカートに、きっちりと着たジャケット、まとめ上げた髪の毛。おまけに眼鏡」

「それのどこがエロいんですか? 神田さんはいたって真面目な社員ですが」

「男の目から見たら、エロいんだよ。性格も真面目だなんて、余計に、だな」

「……桐嶋さん、彼女をそういう目で見ないでください。本当に真面目で丁寧で、貴重な人材なんです。秘書課に欲しいくらいですよ。おまけに謙虚で、可愛いし」

 確かに可愛い顔立ちをしていた。やや童顔で、だからこそ眼鏡がどこか浮いているような気がする。それに、胸も腰もあるが、線が細いところがまた、男心を惹いた。

「彼女に言いますよ?」

「どうぞ。俺の性格はこうだって、あいつも知ってるから」

 付き合って長い恋人がいるのは、佐々木はよく知っている。社内恋愛なんて珍しいことじゃないし、いたって健全な付き合いだと思っている。

 ただ、結婚とかそういうものを考えられない人だったが。

「失礼しますね、桐嶋さん。午後の会議、遅刻しないで下さいね」

 わかった、と言ってスクリーンをオンにした。

 佐々木はにこりと笑って、そうそう、と言った。

「彼女の日高さん、中国支社へ異動だそうですよ」

 秘書課というのは最新の情報が得られる場所でもあった。他の社はどうかわからないが、この会社ではそうだった。佐々木の口から異動の話を聞いて、そうか、と答えるのみ。

「通達はまだ三日ほど先ですが、一応お耳に、と思いました」

「余計な情報だな」

「そうかもしれませんが、さすがに同期ですから。何となく結末は、分かっていますけどね」

 藍獅は今度こそ失礼します、と言って出て行く佐々木を見送ってから、椅子に座る。

「異動、か」

 呟いて、そして眉間に皺が寄る。いったい何年付き合ったか、と数えて確実に五年は経っているな、と思った。その間、結婚しようと思ったことも、それを口にしたこともある。けれど、彼女がそれをもう少し待って、と先に延ばした。いろいろな仕事にかかわるうちに、仕事が楽しくなったらしい。そして主任というポストに就いて一年足らず。そろそろ異動の話も出るか、と思っていたらその矢先だった。

 彼女を待っている間に、結婚はないだろうと思ったのは早かった。きっと彼女もそうだろう、と藍獅は思う。

「話するだろうな」

 自分の周りが目まぐるしく変化をしようとする中で、すぐに考えがまとめられないのはしょうがないことだった。

 そして目頭を揉んで、コンタクトのズレが生じてしまう。

「痛えな」

 藍獅は目から一度それを外して、引き出しから洗浄液を取り出す。

 クリアでない視界と一緒で、いつもは感の働く藍獅も、先はまだ見えていなかった。

 

 

 いつか話しを持ちだすだろうな、と思っていたが、予想に反することなく、それは遅かった。話を持ち出すのはきっと彼女の方からだろうが、性格上、考えに考えて話をするだろうと思ったからだ。

 けれど、話そうとしないのも彼女らしくて、藍獅はそれを促すために口を開いた。

「話があるんだろう?」

「……分かってるくせに、藍獅は何も言わないから」

 笑ったその顔はいつもの顔だったが、やや陰りがある。それを見て、一口ワインを飲んでから口を開いた。

「中国支社は最近伸び盛りだから、優秀な人材が欲しいんだろ。その点では、良美は合格だ」

 実際、仕事ができる女はいる。同期の宮川は特にそうで、藍獅の彼女の日高良美はそれに敵わない。が、それなりに努力をするタイプだから、今のポストに就いているのだろうと思う。

「優秀なのはあなたたちでしょう? 若木さん、宮川さん、篠原さん、そして藍獅。みんな経済学修士取得済みで、日本支社からは動かせないって言われてた。篠原さんとあなたもそうだけど、他の支社へ移動しても、結局呼び戻されて」

 若木と宮川、そして壱哉は会社の方針でアメリカに留学してから、経済学修士を取得していた。藍獅は大学から留学していて、二十二の頃はすでに経済学修士を取得していた。入社した時期は一緒だが、藍獅はスタートが他の優れた三人より早かった。が、結果は優秀で頭もよく、そして人目を惹きつけるような同期、篠原壱哉は藍獅の上を行った。

 それにホッとしたのは藍獅の方で、面倒はごめん、という性格だから上へ行くのは本当に嫌だった。けれど、結果的に勤続年数も長くなり、任される仕事を正確に着実にこなして行く中で、評価されて部長までになったのは、あまり望まないことだった。

「副支社長に、なるんだって?」

「……まぁね。壱哉から任命されたから、受けたよ」

「凄いのね、藍獅。でも、それが当たり前のように思えるから、本当にすごい」

 声に出してそう言って、何を思っているのか大体分かる。こういう所が、面倒だと思っていた。好きなのだが、その負けず嫌いすぎる性格は玉に瑕で。

「それで、どうする? 良美」

 藍獅が言うと、良美はこちらを見る。

「どうするって、どうすればいい? 別れるしかないでしょ? 結婚なんてする気がないくせに」

「それはこっちの台詞だ。キャリアなるから、行きたいだろう? 中国支社」

 藍獅が強く言うと、良美は押し黙った。そして、しばらくして、ええ、と口に出す。

「行きたいと思う。私は、そう、結婚なんて考えてなかった。……でも、好きだったから付き合ってた。これは本当」

「ありがとう、俺も好きだったよ、良美」

 藍獅が過去形で言うと、良美は息を吸った。

 キャリアが大事、それはよく分かっている。初めから上昇志向の強い人だから藍獅も惹かれた。

「遠距離なんかあり得ないから」

「奇遇だな。俺もそう思う」

 藍獅がワインを飲みほしてグラスを置くと、唇を引き結んだ良美がこちらを見た。

「部屋を取ってるの。最後に、しない?」

 言われて間髪をいれずに、藍獅は答えた。

「やめておく。そういうこと、別れ話したあとしない方がいいだろう?」

 それに頷く細い首に、何度顔を埋めただろう、と思う。

「わかった」

「支払はしておく。気をつけて行ってこい。それと、元気で」

 藍獅はナプキンを置いて立ち上がる。

 藍獅は後ろを振り向かずに、食事の支払いをカードで済ませて、その場を後にする。

 どこか軽くなったような肩を感じて、首を捻る。

 別れるということはここまで力を使うのだ、と思った。これだけ力を使うのだから、同期の支社長になった壱哉は、と思いながら、顔を思い出す。

「どうなるかな、これから」

 気持ち的にはたいしてやる気は起きていない。

 けれど、同期の篠原壱哉には応えなければ、とは思う。

 ため息をつきながら近くにあったタクシーに乗り込んで、藍獅は疲れた目を瞑った。

 

 

 副支社長になると、周りの目線も変わっていった。たまについていた秘書が、年中つくようになってそれだけで息が詰まった。メインの秘書は主任の佐々木京香で、さすがに秘書課に長いだけあって、仕事ができた。二日か三日に一回、秘書の人員は変わるけれど、自分を管理されているようで何となく嫌だった。

 支社長として帰ってきた篠原壱哉も同じようなことを言っていたが、彼自体がしょうがない、と受け入れているため、そこは何も言わない。なにより、融通がきいて頭の柔らかい、秘書課課長の春海空がついているからだ。

 けれど、それも役職のせいか、と思いながら我慢していた。佐々木も融通が利くので、わりと好きにさせてもらっているし、しょうがないか、と思う。

 人事権を与えられたという壱哉は、人事には本当に気を使っていた。そういう時に、いきなり結婚式をすることになり、そして結婚式を挙げて。その壱哉の新たな妻になった女性はセンシュアルで、綺麗可愛い細い女性。雰囲気があって、色白だった。壱哉がおよそ付き合ったことのないような女性だったが、それでも二人はとても似合っていて、むしろ前の妻よりも藍獅にとって好ましい人だった。

 そんなときに、今まで頼りになっていた社員が、どうしても辞めなければならないことになった。しょうがないことだが、藍獅もそれは頭が痛いことだった。

「人事の件で相談があるんだ」

 案の定相談されたその内容は、分かってはいるが一応聞いた。

「なんだ?」

「春海が今会計年度で退職するんだ」

「……ああ、そっか。社会科見学は終わり、ってこと?」

 春海は総理大臣の息子で、周りの反対を押し切って会社勤めをしていた。本来なら、議員秘書などになって今頃は議員になっていてもおかしくない年齢。

「今、入院してんだろ?」

「そう。何のストレスか、胃潰瘍でね。働かせすぎたかな?」

「まさか。あれの原因は桜井だろ?」

 藍獅が言うと壱哉が笑って藍獅を見る。

 春海は平静を装っていたが、会計年度の初め辺りに異動してきた桜井朱里に、好意を持っていた。最初は喧嘩ばかりしていたような感じを受けるのに、どうしてかそうなった。

「当たらずとも遠からず、かな。まぁ、どうであれ、決めていることがあるんだ。提案していい?」

 藍獅が頷くと、壱哉は淡々と言った。

「今は兼任させているけど、佐々木を課長にする。秘書課で十年以上働いているし、それが妥当だと思う」

「主任は? まぁ、あそこは別にいなくてもいいだろうが、人員が減ると上の役職がうるさいだろ? 管理してもらってるしな」

 部長クラスは、支社長、副支社長のように常時秘書がついているわけではない。が、スケジュールや、その他イベントや情報などは、秘書課の人間がかかわって管理している。

「とりあえず、しばらくは様子を見るけど、一人だけ気になる人がいて。その人を推そうかと思ってる」

「主任に?」

「そう。今の秘書課の人員で考えられる人はいないから、別の部署から移動させようかと」

 壱哉が気になる人、というくらいだからきっと仕事ができるんだろう、と思う。黙って頷いて、その先を促すように、それで、と言った。

「今の主任クラスを動かすと、後が大変そうだから、平社員を昇格させる」

「どこの誰だ?」

「人事部の神田琳。本当は男を入れたかったけど、その人以外、いなくてね」

 神田、という名前に聞き覚えがあるような気がしたが、藍獅はそれをスルーした。

「どんな人か知らないが、いいんだろ、その人」

「真面目で丁寧な仕事をする。僕の時も担当でね。住む場所とかいろいろ世話になったんだ。人事部部長の若木も神田さんなら、と推してくれている」

「偉智依がそう言うなら、心配ないだろう。壱哉も、その人がいいんだろう?」

 壱哉が頷いて藍獅を見る。

「藍獅もきっと気に入る」

 にこりと笑ったその顔を見て、何も思わないわけじゃなかった。

 しかし、その笑顔の真意を測りかねて、藍獅は微妙に笑顔を浮かべた。

「壱哉、何か……いや、いい」

 意外と策士な面がある壱哉で、表情を見る限りでは何か策を弄しているように思えた。

「藍獅、今君に辞められちゃ困る」

「辞めるなんて言ってないだろ?」

 そうかな、と言って笑う壱哉を見て、見抜いているな、と思った。副支社長の椅子は意外と面倒で、窮屈だった。いつもため息ばかりついている藍獅を、見ていたのだろう。

 そうして藍獅も笑って応えた。

 今回ばかりは、自慢の感もあまり働かなかった。

 それはしょうがないことだが、後にちょっとした痛い目を見ることになるとは思わない。

 

 

 用事があって、支社長室に行った。ちょっとしたことだったが相談したいと思って、インターホンを鳴らして、入っていいと言ったから入った。

「いいよ。ちょうど、紹介したい人がいる」

 そうして中に入ると、知らない女が一人立っていた。

 黒いフレアのシャツワンピース、同じ黒のたいしてヒールの高くないパンプス。黒い髪の毛は綺麗にまとめ上げられて、花の形をした大きなバレッタが目を惹く。

「神田琳さん。今度秘書課に異動して、主任になる人」

 壱哉がにこりと笑ってそう言った。言われて、こちらへ向き直る女の、その大きな目は真面目な銀縁の眼鏡が覆っている。頭を下げるその仕草は、完璧だった。

 神田という名前に覚えがあるのは、当たり前だった。

 藍獅の異動を伝えにきた、人事部の社員。

「なんか、エロいよな。こんな人が秘書だなんて」

 初めて見た時も、黒のスーツを着ていて、きっちりとまとめ上げた髪型をしていた。そして同じような黒のパンプスの踵から、ストッキングが伝線していて、それがやけに目を惹いた。

「それは言い得て妙だけど、失礼だ」

 苦笑顔で言う壱哉に、藍獅も笑う。そして、続けて口を開く。

「綺麗にまとめた髪の毛に、カッチリとしたスーツ。大きめな目に、真面目そうな眼鏡なんて。なぁ、壱哉?」

 こういう言い方をしたら、どんな顔をするのか、と思った。この真面目そうで、エロい女は。

「だから、失礼だ、藍獅」

 さらに笑う壱哉は藍獅をたしなめる。

「が、外見は関係ありません! それに、いきなり秘書課へ異動になったのに、そんなこと言われるなんて心外です。私は、いたって真面目ですので」

 藍獅の言うことに反論するように言って、目を瞬かせる。

 その仕草がどうにも面白くて、可愛いと思った。本当に真面目なのだろう、と思いながらからかうのはこれくらいに、と思う。

「副支社長の桐嶋藍獅です。これから世話になることも多いでしょうが、どうぞよろしく」

 藍獅が手を差し出すと、ゆっくりとその小さな手が藍獅の手を握る。軽く振って、そして手を離そうとすると、その相手がためらいがちに声を出した。

「こちらこそよろしくお願いします。神田琳です。一緒に働けて光栄です」

 緊張した声を聞いて、その手を離すと、琳は少しだけ顔を下へ向けた。

「あの、一度戻らないと。仕事が詰まってますので、失礼してもよろしいでしょうか?」

 壱哉がいいよ、と言うと琳はまた完璧に頭を下げて、支社長室を出て行く。

 その綺麗な細い脚を普通にじっと見てしまう。

「どうだった? 藍獅」

「いいんじゃないか? 新しい主任なんだろ?」

「気に入った?」

 その言い方を聞いて、どこか引っかかりを覚える。

「藍獅、ああいう人、好きだろう?」

「……は?」

 藍獅は瞬きをして、壱哉を見て首を傾げた。

「だから、好みだろ? 日高さんみたいな外見が真面目なタイプよりも、本当に真面目で勤勉な人。細いけど胸も腰もある身体が好きだよな、昔から」

 まるで女を宛がうような言い方だった。

 壱哉にしては珍しいことだ。

「……なんだよ。何が言いたい?」

「神田さん、藍獅の担当にした。副支社長の椅子は窮屈だろうけど、これからは神田さんが君を管理するから、多少我慢して欲しい。僕は君を頼りにしているから」

 そうしてにこりと笑って、藍獅の肩を軽く叩いた。

「言ってる意味分かるよな? 辞めないでくれ、藍獅。神田さんをつけたことに免じて」

「……色気で落とす気か?」

「彼女は出来るよ。色気は副作用と思ってくれるとありがたいね」

 藍獅は最大のため息をはいて、壱哉を見る。

「性格悪いよな、お前。……そんなことしなくても辞めないさ」

「そうかな? 藍獅は王様気質だから、簡単に辞めそうだと思ったんだが。とりあえず、神田さんをつける。もし不満があったら、支社長の僕に言ってくれるかな?」

 そこまで言われて辞めるとかそういう言葉を言えるわけがない。

 というか、辞める気はあったが、支社長にここまで言わせて、そういうことをするわけにはいかない。

「わかった」

「ありがとう」

 壱哉がにこりと笑って、藍獅を見て。

 嵌められたな、と思った。

 壱哉と藍獅は似ている部分があって、だから互いのことも分かっているような、戦友みたいなもの。

 だから本当に好きなタイプの女とか、そういうのが互いによく分かっていた。

 壱哉が今の妻のことを選んで、本当に好きで結婚したのも、藍獅にはよく分かる。

 神田琳は、藍獅の中でそそる女の部類に入っていて、かなりのストライク。

 藍獅は壱哉の隣で頭を抱えた。

 辞める理由はいくつかあったのだが、好みの女が近くにいるのも悪くない、と思い始めているから。

スポンサーサイト
【2013/10/13 09:23】 | Lipstick on someone's collar | トラックバック(0) | コメント(2)
<<Uniform:14 | home/a> | Lipstick on someone's collar:2>>

コメント

こんにたは。

おぉ~!今度は藍獅&琳なのですね。
大好きなLipstickシリーズの更新嬉しいです。

どんどんお話が増えて色々読めるので、また更にこちらに日参する楽しみが増えました。

次も楽しみにしてます(^w^)
【2013/10/13 12:23】 URL | 遊 #-[ 編集]
コメントありがとうございます。
Lipstickシリーズです。
また続きは更新しますので読みに来てください。
【2013/10/15 06:18】 URL | 美珠 #-[ 編集]

コメントの投稿













管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

カレンダー

10 | 2017/11 | 12
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

リンク

このブログをリンクに追加する

最新記事

最新コメント

カテゴリ

プロフィール

美珠

Author:美珠
FC2ブログへようこそ!

検索フォーム

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

月別アーカイブ

最新トラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。