sweet words of love.
こちらは美珠が書く、恋愛小説ブログサイトです

Uniform:14

 父はかなりムッとした。母ももちろん、呆れたため息をついた。

「私の事だから。もう、成人しているし、私が決めたい」

「花娃、本当に言っているのか?」

 父がため息交じりにそう言った。

 サッサと結婚して、家庭に入れば、何も問題ないと思っていた。大学へは行ったけれど、何も得るものはなく、ただ行っただけのようなそれは、ずっと何をしているんだろう、と思った。だから、もうこれは結婚しかないかもしれない。逃げることになるかもしれないけど、これが良いのだろう、そう思っていた。

 けれど、ある人と会って、そして自分の人生が変わった。自分でも勝手をしているだろうとは思う。経済援助を打ち切られても当たり前だったかもしれない、と今は思う。けれど、一度見た自分の将来のビジョンを、諦めるなと何度も言われて、立ち上がったと思う。

「私は、今の努力を続けたい。……そして、篠宮さんと生きて行きたい」

 馬鹿なことを、と思う。もうすぐ二十三歳。院生として学校に通う身で、四つ年上の彼と結婚してどうなるのか、と思う。だけど、初めて会った時から、篠宮理人は光ある人だった。自分とは何て違うのだろう、と思うくらいだった。そんな人が花娃を好きになってくれた。いつも信じていると言い続けてくれる。

 両親よりも花娃を信じている、と思う。優秀で、そして周りからの信頼も厚い彼なら、花娃も生きる道を預けては良いのでは、と思わせる。

 父はさらにため息をついた。母は父の顔を見る。

「好きにしなさい。確かに成人しているし、自分の人生を決めることはある程度できるだろう。聖アンティエの創始者の息子という点では心配などしない。ある程度は賛成できるが、出来ない部分もあることは承知しなさい。花娃も、篠宮さんも」

 そう言って立ち上がって、父は花娃を見た。

「花嫁姿は見せてくれるのか?」

 父の言うことに花娃は首を振った。本当に親不幸で、馬鹿な娘だと思う。どうして首を振ったのだろう、とも思った。それくらい別にいいではないか、と。

「私、きちんと達成できたら、きちんと式を上げると思う」

 それについて、やや怒ったような顔を向ける。母は花娃からあからさまに目を反らした。

 自分勝手な娘、花娃が思うよりも、両親がきっとそう思っている。

 両親が立ち上がって、失礼します、と篠宮家の客室を出た時、花娃は立ち上がりもしなかった。理人が立ち上がって、見送りに立ったのを見て、苦しいため息をついた。

「あなたのご両親は厳しい方のようだね。でも、意外とすんなり了承してくれた。全ては許せないと言っても、それでも許す部分があるということは、君の事を思っているからだと、私は思うよ」

 理人の父理臣がそう言って花娃を見る。花娃は少しだけ微笑んで理臣を見た。

「私は嫌いだわ。花娃の事をもっと理解しているのなら、言葉ももう少し優しいでしょうに」

 相良がそう言って腕を組んで、背をソファーに乱暴に預ける。

「不器用な親なのだよ、野絵留。本来なら娘の花嫁姿を見せて欲しいところも、彼らは我慢したのだから。でも、本当に達成するまで式は上げないつもりかな? 理人との結婚も先延ばし?」

 にこりと笑った理臣に、花娃はまた微笑んで、顔を俯けた。

「父さん、それは二人で話し合うから」

 客室へ戻ってきた理人がそう言って、花娃を見る。

「そうだよね、花娃さん?」

 にこりと笑った理人に、花娃は頷いて見せた。

 

 

 籍は入れてくれるの? と聞かれて頷いた。籍を入れるということは、結婚と一緒。婚姻届を出すということ。それに頷いたけれど、本当に良いのか、と花娃は思った。

 思ったけれど、今この時の気持ちを逃すのも、どこか間違いのような気がした。

 どうして花娃がいいのか、どうして花娃が欲しいのか。そのたびに応えてくれる理人。自分が出来ないかもしれないと思っていることを、いつも信じていると言う理人。

 どうして本当にそこまで言ってくれるのか、どうして花娃を信じてくれるのか。信じていれば望みはきっと叶う、と理人は語って、花娃の唇にキスをした。

「信じきれなくなったら、そのたびに信じてると言い続ける。夫婦は運命共同体だから、どちらか一方でもその信じ切れる強さがあったら、望みはきっと叶うよ」

 僕にはその強さがあるから、と理人は笑みを向ける。

 綺麗な形の目に眼鏡というレンズを着けてもその青さは綺麗だった。澄んでいるようだった。どうやったら理人のような人になれるのか、と思う。冷静で前向きで、きっとこの人は動じたことなどないのではないか、と思う。花娃と初めて会った時も、躊躇もなにもなく自分の考えを口にした。そして、花娃を立ち上がらせた。

 こんな人が、本当に自分のパートナーになるのだと思うと、気が引ける。

「気が引けます。篠宮さんと私だったら、レベルが違う気がする」

「レベルって? 一緒だと思うよ?」

 どこが、と思うと理人は笑みを向けた。

「きちんと努力をする、前向きな姿勢。もし君がそんな人じゃなかったら、僕はきっと出会わなかったし、素通りする他人だった。人は引き合うんだよ花娃さん」

 引力ってあるから、と言う理人に、本当にこの人は前向きだ、と思う。

 きっと大丈夫、と思った。花娃の心も理人の事を求めているし、何より理人が花娃を求めてくれる。そして勇気づけてくれて、花娃を見てくれる。

 用意周到な婚姻届は、父の正臣が用意したのだと言った。本当なのか、と問いただしたら、もちろん、と肩を竦めた。目の前に置かれたボールペン。篠宮理人という文字。

 これを書いて判を押して、役所に出せば、花娃は理人の妻になる。

 本当に良いのか、とまた不安になる。けれど、一つ深呼吸をしてペンを取った。

 そうして名前を書いて、判を押した。ドキドキして苦しいくらいの緊張。これで自分の人生が決められたようなものだ、と思いながら理人を見ると、身体をいきなり持ち上げられた。

「わぁっ!」

 我ながら可愛くない声。だってそのくらい驚いた。持ち上げられて身体をそのまま回転させられる。そうして驚いたまま、抱きしめられて。

「君は僕のものだ」

 嬉しそうな声でそう言うのを聞いて、花娃は抱きしめるそれに苦しさを覚えた。

 こんなに嬉しい声で、あの理人が言うのなら、と。

 花娃は、胸の中に詰まる何かに苦しさを覚えながら、理人の背に手を回した。

 

 

 その日のうちに役所に婚姻届を提出をしたのは理人の父だった。これでまとまらなかったら困るから、とさっさと出しに行った。理人はそれに対してありがとう、と口にしただけで、すぐに花娃を部屋へ連れて行って、息もつかせないほどのキスをした。その後はもちろん体中を触られて、キスをされて、久しぶりに理人を受け入れて。

 翌日、かなり体力がそがれていたけれど、学校に用事があるので、制服を着て聖アンティエへ向かった。もちろん、理人の家から。理人は花娃が出て行く時、まだベッドにいたのに、花娃が用事を済ませると、聖アンティエの制服を着て、大学院にいた。

 久しぶりに見た理人の制服姿。もう少しで、制服は着なくなる、という。きっちり着た制服は、昨日の事など何も思い出させないほどだった。それくらいストイックに、ネクタイもボタンも締めている。

 眼鏡の奥の青い目がにこりと笑って、花娃を見る。

「用事は終わり?」

「……終わりましたよ。篠宮さんは? 学校に用事?」

「君に用事。学校に行く時、生徒は制服を着用だからね。君が帰ってきたら、意味がない」

「なんですか? それ」

 花娃が笑ってそう言うと、一緒に来て、と言った。学生は講義中。誰も廊下になんかいなくて、理人と二人で歩く。理人の後ろをついて行くと、聖堂の中に入った。誰もいない、と言って花娃を見て笑顔を浮かべる。

 そうして、祭壇の前に行って、向かい合って立つように言われた。まるで、結婚式のようだと思いながら花娃は言った。

「結婚式みたいですね」

「成功するまで結婚式はしないんでしょ?」

「そうですよ」

「だから、誓いを立てて欲しいと思って。僕と、神に」

 理人の手の上にはロザリオがあって、その手と同じ方の手を取られて、ロザリオを二人で握るようにさせられた。

「先に、神に誓う。病める時も健やかなる時も、田村花娃を愛し、敬い、永遠の愛を誓う。君を励まし、君を信じ、ともに人生を歩いて行くことを、田村花娃へ誓う」

 祭壇の前、大きなキリストの十字架の前でそう言われて、花娃は息を詰めた。昨日よりドキドキしている。

「君も誓ってくれる? 花娃さん」

 同じように、と言ったので、花娃も理人の言葉を思い出しながら、言った。

「神様に、誓います。病める時もすこや泣かる時も、篠宮理人を、愛し……敬い、永遠の愛を誓います。……一緒に人生を歩いて行くことを、誓います。不安は残りますが、篠宮理人さんを信じてます」

 不安は残る? と理人は言って苦笑した。

「その不安を失くすことを、田村花娃さんに誓います」

 理人は笑って花娃の頬をその手で包んだ。そうして、制服のポケットから、銀色に光るものを取り出した。

「指輪?」

「悪いけど、適当に買ったから、入るかどうか……ちょうど良かったみたいだ」

 ピッタリはまったそれをみて、ああ、結婚したのか、と少しだけ実感した。書類上の事、しかも式も挙げないそれに、実感は持てなかったけれど。

「僕にもしてくれる?」

 もう一つの指輪を取り出して花娃に手渡した。花娃は、理人の薬指にそれを通して、その様子を見る。理人の指は綺麗ですっとしている。爪の形も綺麗だから、指輪が良く似合う。花娃は少し男爪のような形をしているので、この指が少しだけ羨ましい。

「またイギリスにもどるね」

「そう、ですね」

「また遠距離」

「そう……ですね」

「イギリスに、君に会いに行くのも、これで正当な理由になる」

 結婚をしたからね、と花娃の左手を取って指輪を見た。

「これから、一緒に生きて行くけど、覚悟はよろしいですか?」

「な、なんの、ですか?」

 理人は花娃を見てにこりと笑った。

「君一人しか愛さないし、君一人しか抱かないし、離婚は絶対にしない。だからどうか、僕の情熱を受け止める覚悟を」

 そうして、もちろん、と続けた。

「君の努力を傍で見続ける。自分を信じて、一生努力を惜しまないで。僕も同じだけの努力をして行くから」

 ステンドグラスの光が理人に差して、本当に光を受けているようだった。

「僕の光あれ」

 肩を引き寄せられて、理人が花娃にキスをした。優しいキスは、何度も振ってきて、その合間に好きだ、愛してる、と言われた。

 こんなに言われては、花娃は理人の傍にいるしかない、と思った。

 愛して行くしかない、と。そして努力していかなければならない、と。

 これからどうなるか分からないそれに、花娃は光を見た気がした。

 理人と言う、光あれ、の意味を持った名の、その人から。

 

 

 結婚を明かしたのは、結婚してから二年後の事。その数年後の花娃の達成を一番喜んだのは、夫の理人。

 もちろん結婚後、二人は互いに努力をしながら、喧嘩もしながら、自分の目標へ進み、そして長い人生をともに歩いた。

 制服を着て、神に誓ったあの日から、ずっと。

 

Fin

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【2013/10/05 08:45】 | Uniform | トラックバック(0) | コメント(2)
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コメント

こんにちは。万理緒と千歳のお話も嬉しかったですけど、また理人と花娃のお話も読めるとは…本当に嬉しいです。最初は嫌な人だな、理人(笑)と、思っていましたが、何故か惹かれて何度も何度も読み返していました。今では嫌いじゃありませんが(笑)。本当に嬉しいです。 美珠さんもお忙しいと存知ますが、是非今までの小説少しずつでいいのでまた読ませて頂ければ…と。わがままですみませんが、お願いしたいなと思います。では。
【2013/10/11 11:22】 URL | ルースター #-[ 編集]
コメントありがとうございます。返信が遅れてすみません。
理人と花娃に何だか惹かれて、というのはうれしいですね。
千歳と万里緒に及びませんが味のある二人なので、また読みに来てください。
【2013/10/15 06:12】 URL | 美珠 #-[ 編集]

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