sweet words of love.
こちらは美珠が書く、恋愛小説ブログサイトです

Uniform:11

 聖カティアの大学院での、聖アンティエからの留学者に義務付けられているのは制服着用。聖カティアも制服があるので、それと見分けるためだというが、どちらでも一緒だと花娃は思っていた。

 午後からの授業に出るために制服を着て、コートを着て、家を出た。バスを乗り継いで、聖カティアについて、学生証を見せて、ようやく聖カティアの敷地内へ入ることが出来る。治安の関係でセキュリティが厳しいのはしょうがないが、日本では考えられないこと。適当に入れる学校と言う場所が、ここに来て意外と危険な場所なのだと、イギリスに来て思った。

 抱き合った相手が、意外にもセレブなのだと知った昨夜の事。今日の朝のテレビに映ったその人は、篠宮理人と言う名前。もう一つの、イギリス名はリヒャルト・セリンガム。日本で言う、ワイドショー的なニュース。子爵のタイトルを持っていると言った理人は、アナベラ・オルシーニという綺麗な人と話題になっていた。

『ただのゴシップ。僕が好きなのは君』

 予習なんかできなかった。帰ってくれと言った後、理人はあっさりと帰ってくれた。頬にキス一つをして、そして泊めてくれて嬉しかった、と言って。その言葉を反芻しながら、抱き合ったあとの倦怠感を感じて。頬を伝う雫を感じながらテーブルの上に突っ伏した。帰ってくれ、と言った自分の言葉にも、酷く後悔をした。

 授業は最悪。いつもは必死で覚えよとして聞くそれが、全く頭に入って来ない。予習もしなかったから余計についていけない。

 半年以上、理人と離れていた。メールをするたびに思い出して、電話をするたびに低くて澄んだ声を聞いて。すぐそばで瞬きをする青い目を思い出した。濃い青い目は、綺麗な形をしていて、その睫毛さえ青く澄んでいるようだった。敬虔なカトリックとは思えない考えも、その行動力も。すでに二つ目の博士号を取ろうとしているその頭脳も、花娃にとっては羨ましく、どうしてそんなことが出来るのか、と思うくらい。

 花娃は机の上の教科書を目の前に、小さく息を吐いた。

 理人という人に惹かれているのは最初から。顔立ちもそうだが、その前向きな生き方にも、惹かれている。花娃に持っていないものを、理人は持っているから。そう思うと、唇を引き締めて、歯を噛みしめてしまう。

「隣は空いているかな?」

 日本語でそう言われて、コツコツ、と人差し指で机を叩かれた。顔を上げると、見知った相手がにこりと笑う。

「……宮前、教授?」

「久しぶりだね、田村花娃さん」

 小さい声でそう言って、花娃の隣に座ると、宮前はにこりと笑った。そして、こちらを見る講師に、軽く手を振って笑みを向ける。それに対して講師は、ため息をつくようにして、授業を再開した。

「私もここに留学してた。あれは、後輩なんだよな」

 宮前奏は聖アンティエの神学科の教授。そして神父だと教えてくれたのは理人だった。

 花娃が宮前と初めて会ったのは、まだ出来かけの論文を発表した時だった。

「学校は? 楽しい? スキップしたんだってね、おめでとう」

「……ありがとうございます。あの、どうしてここに?」

「篠宮君と一緒に来たんだよ。もう少し交換留学生の数を増やして行こうかと思って。神学科は特に、日本には少ないしね。こちらの文化を少しでも入れて行きたいと思って。イギリスに来て、もう三日目だ」

 宮前は花娃をみて、笑みを浮かべてそう言って、それに、と口を開く。

「前二日は、篠宮君とここに来ていろいろと会議もしたんだけどね。彼は聖アンティエの理事で、経営に携わっているし。でも、純粋に学生としても見学して行ったから、制服を着てたけど」

「そう、なんですね。知りませんでした」

「君も見かけたよ。次の授業に間に合わないのか、走ってたな。篠宮君はそれを見て、頑張っているようすですね、と言っていた」

 そう言って花娃が宮前を見ると、宮前は指をさして前を見るように指示する。授業を受けているのに、結局は宮前の話を聞いているだけになっている。それに対して、ダメだと思いながら瞬きをすると、宮前が笑った。

「今日の授業一つ捨てたって、どうってことないだろ? 篠宮君は、授業は単位が取れる最低限しか出てないけどな」

「……ウソですよ」

「本当。まぁ、きちんと単位はさっさと取るけど、最後の授業なんてほとんど出ないな。教科書読めば答えがあるってさ。憎らしいよね、努力家には。ねぇ、田村さん」

 宮前が笑ってそう言った。確かに、憎らしいこと。花娃は何度も授業に出ているし、そして努力してスキップだってこなした。理人は学業のほかにも学校の経営に携わっている。確かに大変だと思う。全ての授業に出ているとは花娃だって思ってなかったけれど。

「篠宮さんがすごいのは良く知ってます。それで、なんでしょう、宮前教授」

 用事があるからここに来たのではないのか、と思いながら聞くと、宮前はにこりと笑った。年齢はかなり上だけど、この人が整った顔立ちをしているのは分かる。神父なのが惜しい、と院の学生の誰かが言っていた。

「昨夜は君の所に、篠宮君、泊まったんだろ?」

 宮前が意味深な目を向ける。花娃はその目を反らして、そうですけど、と言った。

「すごいなと思って。半年以上も離れていて、心が離れないなんて、篠宮君は情熱家だなぁ、と」

『リヒャルトの家系は情熱で出来ているの』

 相良野絵留がそう言ったのを思い出して、花娃は宮前を見る。

「宮前教授は、何が言いたいんですか?」

「篠宮君の事、許してやったら? 付き合いで行ったパーティーでスッパ抜かれたゴシップなんて、気に病むことはないと思うけどな」

「気になんかしてません」

「なんで? 好きなんだろ?」

 宮前から言われて、花娃は言葉に詰まった。宮前は笑みを向けて、たまには前を向いてないとな、と教団側を向いた。

「タイをしないまま帰ってきたところを、ロビーで会ってね。首尾はどうだったか、と聞くと朝のゴシップニュースで、怒っていた、と肩を竦めてた。……ま、確かに美人だ、家柄も申し分ないな、アナベラ・オルシーニは」

 申し分ない相手、アナベラ・オルシーニ。とても綺麗な人だったし、理人と並んで遜色なんて全くなかった。

「私もそう思います。前に、篠宮さんに言ったんです。他に誰かがいたら好きに付き合って下さい、って。私はまだ学生で、これからの事なんて、まだ分からない。篠宮さんは学者として成功し始めているのに、私は違う。それに、結婚だって、見合った人とだったらきっと幸せになるはずです」

 理人は二十六歳だった。誕生日さえ知らなくて、もしかしたらもう二十七歳になっているかもしれない。あれから半年以上たって、きっと理人は大学院を卒業するころ。理人の事を何も知らない、花娃が恋人のようなものを演じているのも、可笑しい話しだと思う。

「確かに、カトリックはカトリック同士が幸せになれるだろうけど。君は篠宮の事を好きじゃないのか?」

「知りません」

「じゃあ、何で愛し合う? もしどうでもいい相手としてるんなら、君は相当アバズレだな。私はそういう人間は嫌いだ」

 冷静な声でそう言われて、悪いが私は神父だから、と付け加えた。

「こういう話をするのは、篠宮君のため。恋は素晴らしいと思う、愛し合うことも素晴らしい。ただ、それは心の通い合った男女とするべきもの。もし、付き合ってやってるのなら、それは不純だ。優秀な彼に悪い影響を与える。はっきり別れるべきだな」

 花娃が宮前を見ると、宮前はにこりと笑った。はっきり別れるべきだ、と言われてそれが心に突き刺さるのは、どうしてだろう。優秀な人、良い家柄で、整った容貌、スタイルの良さ。何でも完璧にそろっている理人。まさに光ある人だと思う。花娃とは違う、と。

「そうですね。そうします」

 花娃が言うと、宮前は大きなため息をついた。

「私も頭が固いと思うが、君は相当なものだな。それに、頑なだ。優秀なくせに」

 どこが? と花娃は思った。優秀なんて言葉は花娃には似合わない。やっと最近になって両親が花娃の事を認めてくれた。スキップしたそれを褒めて、自分は努力を重ねて両親の思いに勝ったのだと思えた。理人に両親が自分を認めてくれた、と言うことをメールでそれを伝えた。スキップしたことは言わずに、ただそれだけ伝えた。メールでの返事は、花娃を嬉しくさせる内容だった。

『君の努力が実を結んだ結果ですね。果てない夢が届く一歩。これからも努力を惜しまないで。それが花娃さんだと僕は思います』

「優秀なのは篠宮さんです。私は遠く及ばないし、どうしてあの人が私の事を思っているのかよく分からない。私は自分の結果が出せるまで、自分を認められません。人はきっと、私の事を変な目で見るかもしれません。肩の力を抜けとか、言うかもしれません。でも、私はこれをやめられない」

 肩の力を抜いて、もし今をやめてしまったら。きっと花娃は二度と走れない気がした。

 もともと走るのをやめようと思っていた。それを理人から奮い立たされて、やはりこのレールを外れることが出来ないと、きちんと自覚して。そんな時に、理人から好きだと言われた。花娃が惹かれないわけはない。魅力的な人で、花娃をここまで引っ張り上げた人。

 でも魅力的すぎて、花娃は一般人過ぎて。どうして、こんなに頑なで、頭の固い自分を好きになってくれるのか。昨夜の熱心な行為だって、どうしてそうしてくれるのか。

「君と篠宮君は、正反対だな」

 柔らかい口調はさすが神父だと思う。けれどきっと、宮前は呆れているはずだ。

 そこで授業終了のベルが鳴って、ここまで、という講師が教科書を閉じる。いつもなら次回はどこをするのか、という予告をしてくれるそれを、花娃はキチンとメモするのに、今日ばかりはそれを聞き逃すはめになった。

「でも、君の努力する姿と崇高さは尊敬する。篠宮君が惹かれたのはそこかもしれないが」

 宮前は小さく声を出して笑った。

「もうすぐ制服を脱いで自由になる篠宮君を、世間は放っておかないだろう。善しきも、悪しきも。今回の話を断ったとしても、第二のアナベラ・オルシーニが現れる。それでも、その頑固さを貫いていくのか? 愛し合うのは罪ではなく、幸福だよ、田村さん」

 そう言って笑って立ち上がる。

「君に、もし篠宮君と付き合う気がないのなら、さっさと別れを告げるべきだと思う。でも、さっき言ったように、愛し合うのは罪じゃない。時に良い風を起こす時もあるだろう」

 顔を上げて宮前を見ると、宮前は花娃の頭を撫でた。

「今は整理がつかなくとも、すぐにわかるさ。私は神父だから、恋や愛はご法度だがね」

 花娃から手を離すと、花娃に言い聞かせるように言った。

「その幸福さを味わえる君たちが羨ましい時もある。若い君だから、恋と勉強、両方とっても行けるんじゃないか? がんばりなさい」

 花娃は一度顔を俯けて、そして離れて行く宮前を見る。

 花娃に言い聞かせるように理人の事を語って、そして恋も勉強も頑張れと言った。

 そんなに器用じゃない、と思いながらも、花娃の心の中は葛藤でいっぱいだった。

「流されたくないし、あんな人、繋ぎとめるものなんて、持ってない」

 涙が出そうになるのを堪えて、そして顔を上げる。

 今日の授業なんて、出るんじゃなかったと思いながら。

 

 

 今日は無理だと、そう思って残りの授業には出なかった。

 そうして向かった先はマンダリンオリエンタルホテル。午後三時を少し過ぎて、ついた場所はハロッズの近くで、いかにもイギリス的な建物。確かに一度は入ってみたいと思っていたけれど、目の前にすると入るのが躊躇われた。

 しかも聖アンティエの制服を着ているので、余計に、だった。

 それでも何とか一歩踏み出して中に入ると、綺麗な内装が目に飛び込んだ。ロビーにいる人々も、そのスタッフもみなどこか高級感のある人ばかり。花娃は深呼吸をして、フロントに足を進める。もう午後三時すぎ。すでに食事は終わっているだろう、と思いながら一つ息を吐いて、ホテルのフロントスタッフに声をかける。

「すみません、あの……」

 こちらを見るスタッフは笑顔だったけれど、どこか花娃の服装に不審そうな顔をした。聖アンティエの制服とコート。どう見ても学生のようなそんな恰好に、指定のバッグ。おまけに日本人の花娃だから、若く見られているかも知れなかったが。

「リヒト・シノミヤという人は、宿泊してますか?」

「お待ちください……ご宿泊されていませんが……」

 上目遣いで、不審そうな感じが余計に漂った。

「あの、じゃあ、リヒャルト・セリンガム、ではどうでしょうか?」

 それに負けずに言うと、ホテルのフロントスタッフは、顔を上げて言った。

「セリンガム様はご宿泊ですが、ご用件は?」

「私は、その、彼の後輩で……良ければロビーにいると、連絡を入れていただきたいのですが。私は、カエ・タムラです」

 かしこまりました、と言って受話器を取って連絡をしてくれた。けれど、しばらくすると受話器を置いて、申し訳ありませんが、と言った。

「セリンガム様は、ご不在のようです。何か伝言はございますか?」

 どこかに行っているのか、それともアナベラ・オルシーニと言う人の相手をしているのか。

「いいえ、結構です。ありがとうございます」

 花娃は断ってフロントから離れた。聖カティアの方へも用事があったと、宮前は言っていた。もしかしたらその関係で、不在なのかもしれない、と思いながらも花娃は大きなため息をついた。がっかりして。

 もし、アナベラと言う人の相手をしているのなら、どれだけ長い間相手をしているのか、と思う。自分で好きにして、と言っておきながらこういうところが気になる花娃は自分に、嫌気を感じた。

 もう一度ロビーを振り返ると、その場所自体にくらくらする気分だった。こんな場所に来たことがなく、勉強ばかりしている花娃には無縁の場所のように思えた。

「篠宮さん、この場所に来いって? 勇気いるよ」

 ため息交じりにそう言ったけれど、もう少し見ていた気持ちに駆られたのは、その内装が花娃の好みだったから。きっと花娃も気に入る、というような言葉を言った理人のそれが分かる気がした。たまたま開いていたロビーの椅子に座ろうとして、理人を見つけた。

「……篠宮さん」

 呟いてそれ以上声を出さなかったのは、アナベラ・オルシーニと一緒だったから。にこやかに話していて、けれどアナベラの顔がどこか歪んだ様に見えた。そのまま、理人に軽く抱きついて、綺麗な手が理人の頬に触れて離れる。

 花娃はそれを見て、二人に背を向けてロビーの椅子に座る。長い時間一緒だったのか、と思いながら、花娃の心は苦しくなっていく。これはなんだろう、と思いながらも、息を吐いてその苦しさを逃がそうと努めた。

 しばらくそうしていると、いかにもセレブのような綺麗でおしゃれな格好をしたアナベラが、花娃の横を通り過ぎた。その背を見て、息を逃すように何度も息をした。まだ苦しさが治まらない、と思いながら花娃は後ろを見た。理人はすでにいなくて、きっと部屋に向かったのだと、そう思った。

「授業はどうしたの?」

 顔を上げると、先程見た、黒いスーツ姿の理人が目の前にいた。花娃は、驚いて瞬きを繰り返した。

「この時間じゃ、まだ院にいるはずじゃない?」

「……取らなくてもいい授業だったので。上手く行ってるんですか? なんだか泣きそうだった。優しくしてやらないと、女の子に愛想尽かされますよ?」

 花娃が言うと、理人は小さく息を吐いて、花娃の手を取った。

「部屋で話そう。おいで、花娃さん」

 部屋に行ってはいけない気がしたが、花娃はその手に引かれるままに立ち上がる。

 そうして向かって乗ったエレベーターは、どこかレトロな感じに仕上げてあって、花娃の好みだった。

「いいホテルですね」

「花娃さんが気に入りそうだと思って、選んだから」

 そう言って笑顔を向ける理人を見て、すぐに目を反らした。

 エレベーターが止まって、理人は花娃の手を引いて部屋に向かう廊下を歩く。迷いもなく歩いて廊下には、ドアが少なかった。キーでドアを開けて、入った先はイギリス風の絨毯が敷かれた、雰囲気のある部屋。それを見て、花娃は何度も瞬きをしてしまう。ソファーに座るように言われて、座って、コートを脱ぐ。そのすぐ隣に理人が座る。

「まさかこんなに早く来るとは思わなかった。来ないと思ってたから」

 理人の笑みはいつも花娃を魅了する。特徴的な青い目に目が行ってしまうのはしょうがないこと。それでもすぐに反らしたのは、先程のシーンが蘇るから。

「アナベラには、気持ちには応えられないって言ったよ」

 花娃が顔を上げると、理人は花娃を見る。

「どうして? いい人だと思います。綺麗な人だったし、お似合いだった」

「どうしてそういうことを言うかな? 君が好きだと言ったのに」

「意味が分からない。まだ学生で、何も達成してない私なのに。……どこが好き? こんなに私、頑固で……篠宮さんには可愛いところなんて見せたことないのに。……もう、やめてください。私も、やめますから」

 花娃はそこで一度言葉を切って、そして理人の青い目を見て、口を開いた。

「もう、別れてください。嫌です、もう、こんなの」

 理人の事を宮前から言われて、そして思うのはやはり花娃では理人に合わないと思うこと。

 そしてもうすぐ制服を脱ぐ彼が、これからまた誰かに言い寄られるのを見るのは嫌だった。そして、その優秀さを見させられるのも。

「僕も嫌だな、君のそういうの。君は僕に学業とかそういうものでは、一生敵わないよ。君とはまずIQから違う」

「は? IQ?」

「平均が百だとしたら、それより八十は多い。元から普通の人と違っている。競争しても努力しても、頭脳の面では君は当たり前に負けるんだ。そんなものに嫉妬しても、意味がない」

 こんなこと話したくなかった、と言った理人はため息をつく。

「どうすればいい? 学業はともかく、その他は? 君が頑固なのは良く分かってるし、それにその頑なさはある意味尊敬できる。それくらい強く、君に思われたいくらい。……花娃さんの努力する姿は綺麗だ。そこに強く惹かれる、すごく好きだ。別れるなんて、嫌だ」

「でも……」

 だって、どうすれば。

 まだ、理人との、好きだという気持ちに応えるわけにはいかない気がした。花娃はそれだけで意志が弱くなるのを感じる。

「昨夜はあんなに素直に身体を開いたのに、どうしてたったあれだけの事でそうなる?」

「あれだけの事、じゃない。だって本当に似合ってた。本当に素敵な二人に見えた。ロマンスなんて報道されて、誰もが信じますよ、あれは。私みたいな日本人の学生よりも、よっぽど絵になって綺麗だった。これからだって、ああいう人、出てくるに決まってるから」

 花娃は本音を出し切ったように思えた。それでも足りなくて口を開く。

「普通のサラリーマン家庭の普通の女です、私。ただちょっとだけ努力したら、自分が学者になれそうだという夢が出来ただけの、それだけの女です。何も持ってないし、小さなアパート暮らしがせいぜいの、まだ学生。……篠宮さん、そんな私でいいわけ? いいわけないですよ」

「そんな花娃さんの、何が悪いわけ?」

 即答されて息が詰まった。

「だって、僕と父はイギリスで生きるというラウンドを捨てて日本に来た。タイトルはあっても長く社交界に出ていない僕たちは、もう名前だけの貴族。あんな風に騒いだのは、オルシーニ家が社交界で有名だから。もし、君とだったらゴシップにもなりはしない。報道もされることはない。それに、花娃さんは普通に生きれないと思うよ」

 理人は花娃の頬を拭った。いつの間にか涙が頬を伝っていたらしい。

「どうして?」

「君は絶対、考古学者になって、そして有名になるから。思いと努力は、真実になるように決まっている」

 花娃は詰まっていた息を吐いた。理人は、花娃の肩を引き寄せる。

「何も怖くない。怖がらなくていい。もっと僕の傍においで、花娃さん」

「怖がってません」

 花娃が外を向くと、理人は花娃の耳の上で笑った。

「僕は、努力する花娃さんが好きだ。ちなみに、市橋夫妻の夫の方だけど、奥さんが本当に振り向いてくれるまで、十二年も待ったらしいよ。振り向いてくれなかったら、あと十年待つつもりだったって。……本当に、気の長い話し」

 理人は花娃の頬に触れて、そして少し上を向かせる。

「僕はそんなに待たないし、別れると言っても別れない」

 理人はそのまま花娃の唇にキスをした。軽く唇を挟むようにして、すぐに離れて、花娃の名を呼んだ。

「半年以上前に言ったこと、もう一度言うけど、結婚して。そして、傍にいて」

「い、嫌です。そんな風に逃げたくない」

「逃げじゃない。半年離れて、やっぱり君が傍にいないと、僕がだめになりそうだった。僕のために、結婚して」

 青い目が瞬きをして花娃のすぐ近くで、その澄んだ思いを告げる。

 どうしてこんなに素直に、しかも情熱的に言えるのか。

 理人はしっかりと外国人だ、と思いながら花娃は首を振った。

「まだ、学校、卒業してない……っ」

 今度は本格的に唇を奪われて、ソファーの背に身体を押し付けられる。

「成人してるのに、それって問題かな?」

 十分問題だ、と思いながら、先程までの自分の思いはどこに行ったのか、と思う。

「いや、ダメです! ……篠宮さん……っ」

「結婚したら、君だけになるのに、嫌なの?」

 凶器のような甘い色を浮かべる青い目に見られて、花娃はこれをどうかわしたらいいのか、と思う。

 まだ未熟な学生で、何も達成していない、二十四歳になったばかりの花娃。

 首を振って、理人を見ると、理人はため息をついて、花娃から一度離れた。ホッとするのもつかの間で、花娃は理人の肩に抱えあげられる。

「きゃあっ! ちょっと! 篠宮さん!」

 ボンっ、とベッドの上に落とされて、身構える暇もなく、理人が花娃の上に覆いかぶさって。

「ベッドの中では素直だし? 結婚すると言うまで、抱こうか」

 瞬きをして見上げると、花娃のリボンタイが引き抜かれる。首を振ると、その顔を両手で包まれて、じっと見みつめられて。

「結婚して、花娃さん」

 胸に触れてそこを服の上から食むようにして口に含んで。

「い、や……っ、強引! 篠宮さん、キャラ違う!」

「強情。そこも好きだけど」

 笑った理人は花娃の服を脱がしにかかる。それに抵抗すると、乱暴したくないよ、と体重をかけて来て。

 少しだけ息が詰まったその時に昨日と同じような息もつまるキスをされた。

 

 

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【2013/10/05 08:38】 | Uniform | トラックバック(0) | コメント(0)
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