sweet words of love.
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Uniform:10

 イギリスに来て半年以上たって。論文も書きながら何とか頑張って、成績も維持したおかげで、スキップが決まった。一年短縮はすごい進歩。とても嬉しくて、今までお世話になった市橋夫妻や、相良教授にメールを送った。これで緩んではいけないと、そう思いながらも、スキップが決まったことは、少しだけ肩の荷が下りた気がした。

 住んでいる場所は狭いアパート。教材とテーブルとベッドがあったらやや狭さを感じる程度。それでも立派な台所もあって、快適に暮らせる。ただし、この風呂だけはどうしても慣れない。たまにお湯の出が悪くて、とても困る。冬を越せるのだろうか、と思ったら、工事をしてもらって何とかきちんとお湯が出るようになった。

 自分は恵まれていると日々感じながら過ごしていた。スキップが決まって、勉強をしている或る夜に、インターホンが鳴った。来るのは大学院の学生友達くらい。けれど、今日はそんな連絡もなく、ドアスコープを覗くと、予想もしない人。メールのやり取りはあっても、ここに来たことはなかった。初めて来たその人を見て、緊張をしながら、ドアを開けて見上げると、黒いコートを着たその人は青い目でこちらを見た。

「久しぶり、花娃さん」

「……イギリスに来てたんですか?」

「用事があって。出かけ先からそのまま来た」

 そう言う相手をよく見ると、黒いコートの下は蝶ネクタイを身に着けたスーツだった。足元はピカピカの綺麗な靴を履いている。そういう姿が様になっていて、花娃は目を見張った。

「中に入れてくれないのかな?」

 苦笑したその人を家の中に入れた。はっきり言って狭いアパートのいるような人には見えなくて、花娃は気後れする気分だった。

「綺麗に片づけてる」

「狭いから。篠宮さんは、何かのパーティーの帰り?」

 コートを脱いだのでそれを受け取る。黒のジャケットと黒の蝶ネクタイ。中にはドレスシャツを着ていて、どこの貴族様だと思った。イギリスは貴族社会とかそういうものが根強く残っているのが良く分かる。

 篠宮理人。花娃の恋人のような人。

「篠宮さん貴族みたいですね」

「一応、子爵のタイトルは持ってるけど。今日はどうしても外せなくて」

 初めて聞いた事実だった。青い目をした黒い髪の整い過ぎた優しげな顔は、いつ見ても見とれるほど綺麗だった。

「すごい、初めて聞いた」

「初めて言ったから。社交界にもほとんど顔を出さないし、こちらの城も館も全部売ったから。もう戻って来ないと思われてると思う」

「しろ、ってお城ですか?」

「うん、まぁ、そう」

 最後は言葉を濁して、笑みを向けて小さなテーブルの椅子に座る。

「お茶を用意するから待ってて下さい。今日は実はお菓子も買って来たんです」

 ちょうどよかったと思いながら紅茶を用意して、お茶菓子も置いた。マカロンとショートブレッド。こっちの方は焼き菓子が多いことを一番に感じた。

「ありがとう」

「……本当に久しぶりですね」

「君はメールはくれても電話はくれない。別にいいけど」

 何度か理人から電話がかかってきた。ほとんど留守電で、二回くらいしか出たことがない。花娃もメールしかやらないから、いつの間にかそうなってしまった。

 紅茶を一口飲んで、理人は花娃を見た。瞬きをしてその視線を受け取ると、理人は笑みを浮かべて言った。

「今夜泊めてくれる?」

「え? あ、でも、ベッドシングルで狭いし。あとは小さなソファーしか……」

「シングルでくっついて寝るのもいいと思うけど。だめ?」

 久しぶりの誘惑めいた言葉。理人はいつも積極的だと思う。

 理人と寝たのは一度だけ。その後すぐに留学を決めたから、それ以来会っていない。

 期間は半年以上。

「僕は君と別れたつもり、ないんだけど」

「そうで、すね」

 花娃が笑うと、小さなテーブル越しに、理人の大きくて綺麗な手が、花娃の頬を包んだ。

「篠宮さん、ホテルに泊まってるんでしょう? 帰った方が快適に眠れるし、ここはシャワーもなんか時々おかしいし」

 理人が花娃の家に泊まる。くっついて寝る。想像することは一つ。花娃がごまかすように言うと、理人は笑みを浮かべたまま言った。

「じゃあ、花娃さんが僕のホテルに来る?」

 花娃が理人を見て、目を伏せると、花娃の頬から手を離して、紅茶を飲む。

「ちなみに、シングルじゃないよ。綺麗にメイクされた、綺麗なベッド」

 カップを置いて青い目が花娃を見て、思わせぶりに瞬きをして。頬杖をついて、笑みを浮かべる。

「マンダリンオリエンタル、ハロッズの近く。どう?」

「リッチぃ……」

「あの建物とか、中身とか、花娃さんも女だから好きだよね? 入ってみたくない? シャワー浴びて、お酒飲んで、一緒に寝ない?」

 理人が言うセリフは、明らかに花娃を誘うセリフ。目線も、頬笑みも。

「誘ってます、よね?」

「もちろん。たった一回抱いただけ。そして半年以上、会ってない」

 綺麗な格好をした理人。顔は整っていて、綺麗な顔。けれどその服の中身はきちんと、程よい筋肉が張った男そのものだったことを思い出す。

「明日は……」

「昼から出て行けば充分でしょ? 良く知ってるよ、聖カティアだから」

 テーブルの上に置いていた手を取られて、指を絡ませられる。

 目を伏せて、睫毛さえ青く見えるような、その目が思わせぶりに花娃を見て。

「おいで、花娃さん」

 花娃は、大きく息を吸って吐いて、理人を見る。

「昼前には帰りたいです」

「ここに? いいよ、送ってあげる」

「午前中、早めの時間に……」

「授業は午後一時四十五分から。早めに戻ってどうするの?」

 よく知ってるな、と思いながら花娃は答える。

「予習です。授業中に眠りたくないし」

 理人はため息をついた。

「来ないんだね?」

 小さく頷いて、紅茶を飲み干して、理人は席を立った。

「帰るよ。ありがとう、紅茶ごちそうさま」

 にこりと笑った理人はかけてあるコートを手に取った。それを着て、こちらを見る。

「じゃあまた。あと二日はイギリスにいるから」

 背を向けて鍵を開ける。ドアを開けたところで、花娃は立ち上がって、理人の腕を掴んだ。

 何故そうしたか、何故引きとめたのか。

 本当に明日は授業があって、昼からだとしても、予習をいつもしていて。だから今日は予習をして少し早めに寝て、遅く起きてまた少し予習をして、聖カティアの大学院へ行くつもりだった。

 理人の事は、恋人のような人だと思っている。嫌いじゃなくて、抱かれるのも嫌じゃなかった。

 ただ、いつも嫉妬している。理人の頭脳とか才能に。それだけのものが花娃にあったなら、花娃は素直にもっと理人の事を好きになったと思う。

「シングルベッドでいいですか? ……シャワー使いにくいですけど」

 声が小さくなっていく。何を言ってるんだと思った。

「あと、ゴム……あるなら」

 花娃は理人の手を離した。

 見上げると、青い目が花娃を見て、小さく息を吐いた。そして、ドアの鍵を閉めて、チェーンをかけて。

「……っ!」

 強く抱きよせられて、息も止まるようなキスをした。

 

 

 玄関の壁に押し付けられて、繰り返しされるキスに酔って、膝が崩れ落ちそうになると、理人は花娃の足を少し浮かせるくらいに抱きあげて背中に手を回す。キスをしながら移動するのに、花娃は理人のコートを掴むことしかできなかった。

「しの、みや、さん……避妊、してくれなきゃ、やだ……っ」

 花娃の身体がベッドに運ばれて背がそこについて、上からキスをされる。息をさせないように、声を出させないように、そんなキスだった。理人は花娃が言った言葉を理解しているのか、と思いながらも、首筋に顔を埋められてそこに唇の感触を感じると、思わず首をすくめて声が出た。

「ぁ……っん」

 篠宮さん、と花娃が理人を呼ぶと、理人は花娃の手の上に固い感触のものを乗せた。なんだろう、と思って掴むと、それはまだ新しい小さいコンドームの箱。

「避妊は罪だけど、しょうがない」

 コートを脱いでジャケットも脱いで。首にしっかり締められていた蝶ネクタイが、理人の綺麗な指で、性急さを感じさせるほどの仕草で解かれる。サスペンダーを外して、ドレスシャツのボタンを片手で器用に外しながら、花娃の身体に覆いかぶさった。唇を噛むようにキスをされたあと、花娃の上着を引き上げて、下着のホックを外す。その下着も押し上げて、理人の頭がそこへ沈んだ。

「……っ、……っは」

 久しぶりの感覚。初めて理人に抱かれた時も、胸を長い時間愛撫された気がする。そうしながら、大きな手が花娃のスカートに入って、下着とタイツを一緒にずらした。スカートのファスナーも下げて、全て一緒に脱がされて。理人の背に自然に回った手が、シャツをギュッと掴んでいたことを思って。

 綺麗なシャツが皺になっているだろう、そう思って指を何とか開こうとして、そして開いたけれど。

「あ! ……っ、やだ、ま、って」

 下半身の全てを脱がされて、足の間に手が入る。開いていた足を閉めたけれど、そこの指が動いて、唇を噛みしめて、理人のシャツを掴んで背を反らした。

 胸と足の間。両方を理人から触れられて、花娃の身体は急激に高まる。心臓の音がうるさい。早くなっていく息と声を止められない。

「しの、みや、さん……っ」

「花娃……」

 吐息のように名前を呼ばれて、余計に苦しさが増した。理人は花娃の胸から唇を離して、そして花娃の上着を完全に取り去る。

「手、離して、花娃。シャツが脱げない」

 ずっと握っていたシャツを言われて離して、シャツを脱いだ理人の肌が露わになる。程よく筋肉の乗ったからだ。勉強ばかりしているのに、この身体なんだ、と思う。理人の中に流れる外国人の血が、体格を良くさせるのか、なんなのか。コンドームの箱を手にとってそれを開けて、適当に取り出すのを見る。

 そうして、スラックスのジッパーを下げるのが分かって、理人の興奮しているそこを見て。

「篠宮さん、他の誰かと、した?」

 あんまり会いに来ないでください。他に誰かがいたら、好きに付き合って下さい。

 花娃はそう言って理人と空港で別れた。

 理人はその通りにしたのだろうか、と思う。少なくとも、あんまり会いに来ないでください、という要望には応えてくれていたと思う。

「君がいるのに、するわけない」

 きっぱりと答えた。本当にそうだろうか、と思いながらも、嘘はつかない気がした。

 綺麗な理人の下半身は欲を示していて、花娃は思わず息を飲んだ。目を閉じて、顔を反らして、開かれる足をそのままに、力を抜いた。

「痛かったら、言って」

 顔を反らしたまま目を開いて、これからされることを想像して、何度も呼吸をした。片手は花娃の膝の上に置いて、花娃の足の間に手の感触を感じたと思ったら、大きい固いものが花娃の隙間を埋めた。

「ぁ……っ」

「……は」

 理人の息を吐いたそれが小さな声に聞こえた。

「……っ、篠宮さん」

 久しぶり受け入れたそれは質量が大きくて、花娃が眉を寄せて名を呼ぶと、理人は頬に触れて笑みを向ける。

「痛くない?」

 頷くと、頬にキスをして、耳元で口を開いて理人は何かを呟いた。思わず赤面するその言葉に、思わずその肩を拳で軽く叩いて。声を出して笑う理人は久しぶりに見たと思った。

「動かないの? 篠宮さん」

 花娃の中に入ったまま、動かない理人にそう言うと、理人は花娃に小さいキスをした。

「もう大丈夫? 慣れた?」

 理人自身はきっと大きい方だと思う。少ない男性経験上の事だが、そんな気がする。花娃はすぐにいっぱいになってしまうから。大腿の上を、大きな綺麗な手が滑るのを見て、花娃がもう一度頷くと、理人は足を抱え直して、腰を花娃に押し付ける。

「んんっ」

「花娃の中、狭い。半年前と変わらない」

 そうして緩やかに動き出すのを感じて、息を詰めて吐き出して。拠り所のない手を理人の腕に絡めた。

「あ、あ、しの、みやさん」

「その、切なげな声、すごくイイけど……。理人、ほら、呼んで」

 少し腰を揺らす速度が速くなって、理人からそう言われて、目を開ける。瞬きをして、青い目を見て。

「り、ひとさ……っん、もう少し、まだ……ゆ、っくり」

「無理、よすぎて、むり」

 片言のように、そう言って、花娃の中を出入りして、時々その中を回すようにして。

 一度抱かれた時と違って、二度目はどこか執拗な感じだった。花娃の官能を引きだすように触って、繋がった部分を揺らした。声が上がって、それでも大きな声を耐えたのは、隣に聞こえるのではないかと思ったから。花娃のアパートは治安は良いが安い物件。隣の話声も聞こえる時がある。

「となり、聞こえる」

 理人の腕を掴んで、そう言うと理人は花娃の身体を引き上げた。より深く理人を受け入れることになって、息を詰めて理人の肩にしがみついた。

「隣の真面目そうな日本人、男とやってる、って?」

 綺麗な顔をして、そんなことを言うのか、と花娃は息を詰めながら思って。

「それが何か、悪いこと?」

「理人、さん、カトリックのくせに」

 聖カティアに来て、特にそう言うことを感じるのは、ミサとかそういうものに出ることが多いから。そして、カトリックに基づいた授業だってある。だから、少しばかり詳しくなってしまった。こういうのも、罪である時が、あること。

 花娃がそう言うと、理人は花娃の身体を下から突き上げて笑った。

「愛しあうことは罪じゃない」

 そうして、花娃の身体を何度も下から突き上げて。何とか声を堪えようとするけれど、声が出てしまった。

 何度もそうされて、キスをして、腰を引き寄せられた時に、背を反らして理人の肩に回した手に力を込めて。心地よさとか苦しさとかがない交ぜになって、達して。

 その後何度か腰を揺らされて、そして腰を強く引きよせたかと思うと、何度か強く打ちつけて、その動きが止まる。達した余韻と、そのあと内部を打ちつけられたそれで、身体が酷く脱力して。

「して、良かったでしょ? 花娃さん」

 理人の身体に身体を預けて息を忙しなく吐き出して。

 理人の大きな手が背を撫でた。

 花娃の息を整えるのを、手伝うように。前も同じようにされて、心地よく感じたのを覚えている。

「理人さんは?」

 少しずつ整ってくる呼吸の合間に、質問し返すと、理人は耳元で微かに笑った。

「よかったよ。証拠、見る?」

 そう言って花娃の身体を横たえて、理人はつながりを解いた。

 それにすら感じてしまって、甘い声が出て、恥ずかしかった。

 

 

 何度も抱き合って、狭いシングルベッドの上で、ようやく息が整った。そうすると、壁側の理人が花娃の身体を抱きよせて、肩にキスをした。

「学校はどう?」

 耳の辺りでそう言われて、少しくすぐったさを感じた。

「とても、楽しいです。スキップしましたよ」

「ああ、そうだった。おめでとう、花娃さん」

「……まだまだ、ですけど」

 やっと一年スキップしただけ。あと一回しなければ、目標とするところへ行けない。博士号を取って、そして日本に帰ってきちんと考古学者として研究を進めたいと思う。それが出来るための一歩を進めたばかり。

「篠宮さんには及ばないから」

「理人、だよ、花娃さん」

「理人さん」

「さん、もいらないな。理人でいいのに」

「じゃあ、花娃って呼ぶべきですよ」

 たかが名前くらいで問答したところで理人が笑って、花娃さん、と言った。

「君は、花娃さん、でいい。でも、僕は理人、いい?」

 耳に髪の毛をかけられて、そこへ小さいキスをされて。なんだか変だ、と思う。今日は理人の魔法にでもかかったように、理人の言うことを聞きたい気分だった。

 いつも反発しているのに、どうしてだか今日ばかりは胸が高鳴って、彼の言い分を素直に聞いた。

「じゃあ、理人。もう寝ませんか?」

 理人は笑って、深く花娃の身体を抱きしめて、そして首にキスをした。

「そうだね、今日はもう寝ようか」

 腕の中にしっかりと閉じ込められて、花娃はそれに身を預けて目を閉じる。

 けれどすぐに開けて、理人に言った。

「寝にくくないですか?」

 花娃が言うと、理人は小さく息を吐いて、言った。

 寝にくさも、愛しあった証拠、だと。

 訳が分からない、と思った。

 

 

 翌朝、遅い時間に起きて、肩が痛いと思った。抱きしめられて腕枕で寝ると、肩がこるものらしいと、花娃は気付いた。理人はすでに起きていて、どこかの朝食でも食べに行く? と言った。花娃が首を振ると残念そうに、まだ裸の身体を起き上がらせて、シャワーを浴びに行った。

 あまり強く水の出てこないシャワーを浴びて、面白いな、と言いながら出てきて。交代で花娃もシャワーを浴びた。

 紅茶を入れて、昨日の焼き菓子を朝ご飯代わりのように二人で食べて。テレビをつけると、日本ではワイドショーのようなニュースがあっていた。ゴシップのようなそれを見て、理人はため息をついた。

「やっぱり、ホテルのご飯、食べない?」

「そんなお金ないですけど」

「僕が出すのに」

 お金持ちめ、と思いながらテレビに視線を移すと、違うゴシップに変わっていた。

『マーティン卿、リヒャルト・セリンガム氏と、イタリア貴族の末裔でセレブの、アナベラ・オルシーニとのロマンスは……』

 テレビの画面には、昨日と同じ服を着た理人がいた。

『社交界から消えていたセリンガム家は名門であり、敬虔なカトリック教徒の家柄。同じくオルシーニ家もまた……』

 テレビの画面が音を立てて黒くなった。

 理人の綺麗な指がリモコンから離れて、大きく息を吸って、大きく息を吐いた。

「つまらないゴシップを。いつの間に……」

 黒くなった画面にそう言い放って、花娃を見る。

 綺麗な人だった。ブラウンの髪の毛と、同じ色の目を持つスラリとした綺麗な人。背も高そうで、理人の隣にいて遜色なく、上品で。

「なんだ、篠宮さん、誰かいたんですね」

 花娃がそう言うと、何度も青い目が瞬きをした。そして、違う、と言った。

「ただのゴシップ。僕が好きなのは君」

「でも、テレビの中の篠宮さん、昨日と同じ恰好。デートの後、ここに来たんですね」

 何が違うのか、と思う。けれど、理人は嘘はつかないとも思う。

 ただのゴシップで、理人が好きなのは花娃だと。嘘はないように思える。

「花娃さん、あれは、デートじゃない」

「じゃあ、何?」

「オルシーニ家が主催したパーティー。出席しないと、父がうるさいからそうしただけだ」

 そこをたまたま写された、と理人は言った。

「篠宮さん、別に、いいです。他に誰かがいたら、好きに付き合って下さい、って言ったの私だし」

 普通に笑ったと思う。でも、笑えてない気がした。

「正直に言うと、この後、ランチも一緒にしなければならない。でも、ただ、セリンガム家としての建前。僕が好きなのは、何度も言うけど、花娃さんだけだ」

 その頭脳にも心にも惹かれるのは君だけ。

 そう言った理人を思い出す。

「篠宮さん、でも、あんなに綺麗な人だし。私はただの学生だから……だから……」

 好きに付き合って下さい。

 そう言うつもりだったのに、言えなかった。どうしてだろう。昨日熱く抱かれたからとでも言うのか、と花娃は心の中で考えながら、理人を見る。

「花娃さん、僕は理人。昨日、そう呼ぶように言ったよね?」

 理人は青い目で見て、瞬きをして、本当に作られたように綺麗な顔をしている。

「僕は、君の頭脳も心も、本当に欲しくて堪らない。あれは、本当にただのゴシップ」

 理人が手を伸ばして、花娃の手を掴んだ。花娃はそれを見て、小さく息を吐いた。これ以上なんだか心を乱されたくなかった。

「帰ってください。授業の、予習を、するので」

 花娃が言うと、理人は大きくため息をついて手を離した。

 分かった、というように立ち上がって、ジャケットを着た。

「マンダリンオリエンタルでランチなんだ。あと二日滞在するから、よかったら今日の夜にでも来て欲しい。来なかったら、僕がここに来るから、夜はいて。いい?」

 花娃は頷かなかった。

 理人はそれを見て、コートを手にとって、それを着て。花娃の頭を撫でて、頬にキスをしてそして言った。

「泊めてくれてありがとう、すごく嬉しかった」

 花娃が見上げると、いつもの笑顔。

 その睫毛さえ青く見えるようなその目が瞬きをして、小さく手を振る。

「きちんと鍵、しめといて」

 頷くと、理人はそのドアを開けて出て行く。

 音を立ててドアが閉まって、花娃は立ち上がって、鍵を閉めた。

 そうして、もう一度テーブルに戻って、予習をしなければ、と思った。

 なのに。

「どうして、足が立たないんだろう……」

 テーブルに縫いつけられるように、花娃はそこから動きたくなくて。

 理人の先程のゴシップを思い出して、胸が苦しくなるのを抑えきれずに。

 頬を伝う雫を感じて、何をしているんだろう、と思った。

 昨夜の余韻、倦怠感を感じながら。

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【2013/10/05 04:18】 | Uniform | トラックバック(0) | コメント(0)
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