sweet words of love.
こちらは美珠が書く、恋愛小説ブログサイトです

Uniform:7

「なんでや? 僕らの援助辞退したい、て」

 父から仕送りを止めると言われて、確かに甘えていた自分がいたことを認識して。そして、援助を申し出てくれたその人たちに、自分の考えを言うために会っていた。

「自分が、甘えていたと思って。父達の気持ちも分かるんです。今まで、大学だって行くには行ったけど、何も考えてなかったから。それを両親は知っているし、それでも行かせてくれたから。今更大学院、って言われても、いい顔をしないのは分かってました。どうにか行かせてもらっていたけど、私の目標が大きいから叶わない、って言われて」

 努力を、と言われた言葉が胸に響いた。何度も考えた。こんなに恵まれて、勉強をしてもいいだろうけれど、その努力がおろそかにならないだろうか、と。何より、こんなに恵まれた学生はいないだろう。それも、あの人と出会ったおかげだと思う。

「今までしてきた行いが悪かったんだと思うから。すごくたくさんのお金を援助していただけるようですけど、それは辞退します。アルバイトとか増やして何とかやります。幸い奨学生ですから、学費は心配いりませんし。学生寮も、あいているようだから、そこに入ります」

 目の前の人はため息をついた。

「そこまで考えてるんやったら、なんも言えんけど。せっかく理人が話持ってきてくれたんやけど」

 努力を、と言った篠宮理人。ハーフで頭もよくて、容姿も綺麗。ハーフだけあって、腰の位置が高く、聖アンティエの制服がよく似合う。

「せっかく考えたのになぁ。なぁ、彗さん」

 そうね、と答える眼鏡をかけた美人は、市橋彗。天文物理学ではかなり著名人。

「しょうがないと思う。田村さんはきちんと考えているんだから、市橋君や私が何か言っても、譲らないと思う」

「そうやな。君みたいな頑固さんやわ」

 市橋君、と呼ぶ辺りが可愛いと思う。市橋恒星も天文物理学では名の知れた科学者。世界に知れている市橋恒星の名は学生で違う分野なのに知っているくらい。

「でもな、花娃ちゃん。寮は門限あるで? そんなんでアルバイトできるんかいな。それに、勉強も遅れてまうよ?」

 図星を刺されて確かにそうだけど、と思う。けれどやり方あるはずだから、と大丈夫ですと言った。

「大丈夫とは思えないわ。……私たちの家に住みなさい。部屋は余ってるから。市橋君が大きな家を買ったせいで、掃除も大変だし。掃除のアルバイト代出してもいいから」

 また助けられるような、そんな申し出。

 この前まで世をすねていた花娃に、どうしてこんなラッキーなことが起きるのか。よほど恵まれているに違いないと思う。本のこの前まで、何もしたくなかった花娃なのに。

 理人からも言われた、自分の家に住めばいいと。大きな家だから、部屋は余っているから、と。

 理人の家に住むよりも、市橋夫妻の家に住む方がいいと思う。

「彼氏からも言われとるんやで、こっちに住め、て。なぁ、花娃ちゃん」

 彼氏と言われて、なんで知ってるんだと思う。理人が話したのかも知れないが、そんなに通じ合っているのか、と。

「篠宮さんは、彼氏らしくない彼氏ですけど。だから、一緒の家になんて、住めませんから」

「ほーら、なぁ、彗さん。彼氏やんか、理人。おかしい思ったよ、援助をしはるんならこの学生、ってえらい押すし。あのディベート見たら、好きな子としか思えへんで?」

 え? と心の中で呟いて、目を見開く。

「市橋君と一緒よね。気に入った相手は、相手の才能を引き出すまで言い続ける。性格悪い」

「なんや、彗さん。理人は僕より冷たいで。そりゃあ、コテンパンやったもの。あんなんが彼氏やったら苦労するわ。顔もええし、カッコええし。なにより、頭がよう出来とるし」

 カマをかけられただけだったのか。そう思うと、もう何も言えなくなる。

「でも理人、綺麗過ぎてお人形さんみたいやなぁ。あんなんがエッチする姿、想像できへんわ」

 ははは、と笑う恒星に、花娃は顔を赤くして俯く。

 花娃だって想像できるはずもない。確かにお人形と言うのは言いえて妙で、理人からはそういう匂いがしないから。

「市橋君、下品よ! もう、ごめんなさいね、田村さん」

 バシッと頭を叩かれて、痛いなぁ、と言った恒星に花娃は苦笑いを浮かべる。

 そんなところまで行ってませんけれども、と思いながら、市橋夫妻のとこに下宿を考えた。

 本当にしてもいいなら、とまた甘い考えを持ち始めるけれど。

「田村さん、努力は環境を整えてこそよ。もしウチに来る気があるなら歓迎する。あと、最後に確認だけど、金銭的な援助はいいのね?」

「はい。ありがとうございます。下宿させていただいてもいいのなら、前向きに考えます」

 援助を断って、けれど住んでもいいと言う申し出はかなり魅力的で。

 それに学問と言う分野で身を立てている二人の傍は、きっと自分にも刺激になると思われた。

 いろいろと動いてくれた理人には悪いけれど、自分で考えて自分で出した答えだから。

 きちんと理人と話さなければ、と思う。

 今の理人との関係も、全部。

 

 

「市橋夫妻の援助を断ったそうだね」

 いつもの場所、第二図書室の二階、奥にあるテーブル。その上に学校指定の重い学生鞄を置いて、花娃が教科書や辞書を広げる席の前に座る。

「下宿をさせていただく点は、断りませんでした。父と母ともキチンと話して、頑張るという名目で大学院に行くのを了承してくれたし。両親からの援助はないけれど、それは私が悪いから」

 テーブルの上に置いたバッグを自身の隣の席において、そして花娃を見る。

「僕の家は嫌だった?」

「そういうわけじゃないんです。良くしてもらって、本当に嬉しかったけど。学校に入る時も、そして学校に通うのに困難になりそうな時も助けてもらって。こんなことされることだって、特別過ぎて」

 理人は理事だと言った。その理事である彼の家にと言うのは、どう考えても特別扱いだ。

「特別扱いをしたかったんだけど」

 そうしてじっと見られて、花娃は視線を外す。

「試験は大丈夫そう?」

「はい、きっと。A以下はとりたくないから」

A以下を取ったら、許さないよ」

 理人の言葉に顔を上げた。理人は笑みを浮かべて花娃を見る。

「ドクター市橋の好意を断って、僕の行為も断った。ちなみに聞くけど、君は博士号をいったいどれくらいで取るつもり? 博士号は最初のステップだとするなら、まずそのゴールの目標は?」

 あ、と心の中で呟く。ただ勉強するだけではだめなのは分かっている。きちんと単位もとらないとだめで、もちろん最終的には博士号を取るために努力をする。

「二年以内に、出来れば」

「アルバイトをしながら? 出来るかな、本当に」

「篠宮さんも、かけ持ちをしていたんじゃないですか? この学校の経営と、勉強を」

 理人だって、経営にかかわっていると言った。それは仕事をしながら勉強していたことになる。そしてパソコンを操作して、この図書室で仕事をしているときだってあるのだ。

「ここでは相良、だよ、花娃。僕は自分で言うのもなんだが、要領がいい。でも君は違う。すぐに熱くなるし、他のことが見えなくなる。アルバイトと勉強のかけもちが出来るとは思えない」

「出来たらどうするんですか?」

 小さくため息をついた理人は、相変わらず笑みを浮かべたままだ。

 確かに要領がいいのだろう。文学で博士号を取って、そして今は神学を学んでいる。その神学の博士号も、取るのは時間の問題だと言われているのも知っている。そうしてら今後理人はどうするのか。それさえ花娃は知らない。こんなもので、付き合っていると言えるのだろうか、と思う。

「やってみたらいい。大変だから」

 大変、と言う言葉を聞いて花娃は首を傾げる。

「大変って、思ったことあるんですか?」

 そんな素振りなんて全く見せない、綺麗な形の青い目。いつも涼しそうに何ごともこなして、花娃のレポートもきちんと読み砕いて。そんなこの人が大変だなんて、と花娃は思う。

「大変だよ。いつも、常に」

「でも、スピードが速いじゃないですか。二つ目ですよ、博士号」

「自分の学校から、未来を担う学者を出すのに、止まっていられないから。僕は単なる模範生。後に続くのは、未来の科学賞や文学賞を担う学生たち。相良理人がこれだけやった。じゃあ自分はもっとやって見せる。そんな学生が出てくることを祈るだけ。大変だけど、止まれない。僕の理想をかなえてくれた父のためにもね」

 そうして言葉を止めてから、花娃を見て、大きくため息をついて。

「君は目指す学問が違っても、そういうところを見せる学生だと思っていた。でも、違う? 君は考古学者になって、それを職業として行くのではなかった?」

 確かにそうだけれど、と思いながらそれでも環境は整わない。理人はそうしてほしいからきっと花娃の周りを整えようとした。でも、理人は他人だから。そういうことは、甘えられない。

「私は、きちんと目指します。要領が悪くても、きちんとゴールします。でも、スピードまで約束はできません」

「君が援助を断るからだ」

「だって、そんなことしてもらう謂われはないでしょう? 彼女と言ったって、形だけ。何をするわけでもないでしょう? 相良さんは、ただ私の頭が欲しいだけなんだ。きっとそう。でもどうにもならないこともあるんです。私だって学びたい。今は本当に勉強がしたい。彼氏から援助とか、補助をされても、後から何も返せなかったらどうするの? 私は、そういうのも嫌だし、自分の力で立って見せて、両親も見返したいんです」

 言っていることが重複しているうえに、支離滅裂のような気がする。

 花娃だって頑張りたいと思う。けれど金銭面はどうにも解決策はないだろう。大学まで出してくれたから、大学院に行ける。両親に感謝もしている。見返したい気持ちもあるが、そうして自分の足で立つ花娃も見て欲しいのだ。

「とにかく、こんな状態で付き合いなんてできないし。別れると言うほど何かしたわけじゃないけど、今までありがとうございました。感謝してます」

 花娃は教科書をまとめた。辞書もまとめて、バッグに入れながら前の席に座った理人を意識する。一方的に言って、理人に失礼だと思う。でも、少しは間違っていないと思うから。

「さっさと手を出せばよかった? 君が言っているのはそういうこと?」

 教科書を片付ける手を止めて、理人を見る。理人はその視線を受け止めて、にこりと笑った。

「君を求めてると言ったじゃないか。なのにそっけない態度を取るのは君だろう?」

「そんなこと、ありません」

 自分で言って、そんなことがあるのは知っていたけれど。でも、全面的に拒否したわけではない。キスは許した。抱きしめるのだって許してる。

「よく言う。手を出しても文句は言わないなら、今すぐ出すよ?」

 花娃は椅子ごと後ずさった。その様子を見て、一度瞬きをした青い目は、花娃をじっと見る。

「勉強のこととか、これからのこととか。そういうことばかりしか話さない君を、待つのはよそう」

 そうして立ち上がる理人を見て、こちらに向かってくるのを見る。何をするのか、とかそういうことを考えていて、けれどだいたい分かって、椅子を立とうとしたけれど。腕を掴まれてはどうにもできなくて。

「ここは、図書館です」

「だから?」

 首を撫でられて、耳の後ろも同じようにされる。花娃は首をそらした。

「ここで、何をするんですか? 図書館です」

 もう一度同じことを言うと、理人はゆっくりと瞬きをした。長い睫毛の青い目は、花娃と視線を合わせるようにして、目線が低くなる。そうして、もう片方の手は髪の毛に手を入れて花娃の顔を寄せる。顔を傾けて、花娃の唇を挟むようにしてキスをされる。

 唇を離して、花娃の耳元に唇を寄せて、そこにキスをしながら理人が口を開く。

「図書館が嫌なら、僕の家に来る?」

 間近で見られて、花娃はその青い目が美しいと思った。空より濃い色の、青色の眼が花娃を見るから。

「……はい」

 心のどこかでこの人はきっと花娃には手を出さない人だと思ってた。カトリックだと言った、この人形のように作られたような人が、花娃の身体を抱くなんてありえない、と。

 でも、今はそうしようとしていて、けれどそれがどこか嘘のように思える。

 理人は笑みを浮かべて、手を伸ばして自分の学生鞄を持った。背が高いから、リーチが長いのだ。そうして花娃の学生鞄をもって、手を差し伸べる。

 この手を取ったら、と思う。

 そうしたらいったいどうなるのか。

 大きな手の上に花娃はその手を乗せて、椅子を立ち上がる。

「鞄、持ちます」

 自分の鞄を理人から受け取って、そのまま手を引かれる。

 司書のいるカウンターの前を通って、その司書からつないでいる手を見られる。

 やけにじっと見るので、花娃は顔を伏せた。

 

 

 徒歩で帰れると言った理人の家は、歩いて十分くらいだった。

 やや古い洋風の家で、どこか重厚な感じがする家。

 手を離して、同じく重厚な門を開けると、その中にためらいもなく入っていく。大きな家だと思いながら見上げていると、理人がその手をまた引いて歩く。

「大きな家ですね」

「祖父の時代からある古い家だから。僕が知っている限りでも何度かリフォームしたよ」

 そうして大きな扉のような玄関を開けると、どこはいかにも洋館と言う感じで。こんな家には行ったことがない花娃は、辺りを見回す。おいてある家具も何もかも重厚感のあるもの。

「お帰りなさい、理人さん」

 そう言って奥から出て来たのはいかにもお手伝いという感じの、壮年の女性。

「こんにちは」

 花娃は失礼の内容にあいさつした。同じように挨拶を返されて、女性は理人を見る。

「お部屋にお茶でも?」

「いいです。ありがとう」

 そう言って断ると、階段に向かって歩いてそこを上る。

 広い廊下に三つ部屋があって、その部屋の一つの部屋のドアを開いた。

 中に入ると壁側に大きな本棚と机が目に入って、反対の壁にはピアノが置いてある。花娃の手を離して、学生鞄を花娃の手から奪う。自分の鞄と一緒に机の上に置いて、ピアノの隣にあるドアを開ける。

 そこはベッドルームになっていた。ベッドの前まで手を引かれて、その傍に立つ。

「あの……?」

 それを見ると心許ない気持ちになって理人を見る。

 理人はそんな花娃の身体を抱き寄せて、キスをした。このままするのか、と思いながら繰り返し啄ばむようなキスを受ける。そして深く唇を重ねた時、自然に小さく声が漏れた。

「このまま?」

 唇を離したときにそう言うと、理人はかすかに笑って答えた。

「君の制服を脱がしてみたかった」

 そうして花娃のリボンタイを解くと、襟から衣擦れの音を立てながらタイが引き抜かれる。少し身体を押されて、ベッドの上に腰がついた。ベッドの上に膝をついて、上から花娃を見る。

「制服を脱がすの、好きなんですか?」

 花娃が言うと、理人は苦笑して、まさか、と言った。

「君の制服の中身を想像していたから、そうしたいだけだ」

 聖アンティエのいかにも硬そうな制服の上着のボタンを外される。上着を脱がされて、中のベストのボタンを開けられる。そうしてブラウスに手をかけながら、身体を軽く押される。それだけで、ベッドに背がついて、その上に理人の顔があった。ネクタイを解く手を見て、上着のボタンを外すのを見て。

「制服って、エロいですね」

「見ようによっては、確かにね」

 笑みを浮かべてそう言って、理人の顔が花娃の首に埋まる。

 久しぶりに吐いた重い息は、花娃も想像がつかないくらい甘い吐息だった。

 制服の布の感触を感じて、それが擦れる音を聞いて。

 これからすることを想像すると、酷く心臓が高鳴ってうるさい。

 初めてしたときに、こんな風に心臓が鳴ったかもしれない。けれど、今はその比ではない気がした。

 いかにも品の良い制服を脱ぐそれと、理人の整った顔がどうしてもセクシャルでしょうがない。

 服を脱がされながら、身体に触れられて。

 こんな人が花娃の身体を抱くなんて、とどこか客観的に見ていた。

 けれど、そういう風に見れたのはつかの間のこと。すぐにそんな余裕はなくなってしまった。

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【2013/10/05 03:54】 | Uniform | トラックバック(0) | コメント(0)
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