sweet words of love.
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秀外恵中:1

 ――――十代のころから分かっていたこと。

 真井初は、類まれなる才能と頭脳を持って生まれている。

 

 

 初めて初と会ったのは高校一年の時。初、と書いてはつ、とそのまま素直に読む名前は、長男で初孫だからつけられたと言う。その真井初は容姿をも、素晴らしく飛びぬけていた。

 高校一年にして百八十を超える長身。大きく切れ長ではっきりした二重目蓋の目は、瞬きをするたびに色気を放ち、長い睫毛が揺れていた。おまけに、その唇はいつも笑みを浮かべているような唇で、薄すぎず厚すぎない、魅力的な形。鼻筋は通っていて、日本人ではない雰囲気。

 真井初はアメリカ人の祖父を持つクオーター。顔立ちは日本人のような雰囲気で、もし祖父が外国人と知っていたら、外国人混じってる? と聞きたくなるくらい。ただ、体格は日本人のように華奢ではなく、細身なのだが体格は良かった。

 祖父がアメリカ人、というのは珍しい。今どきだったら、親がアメリカ人、というのは分かるが祖父が、だ。きっといろいろあったことだろうと思う。その祖父の血を確実に引いているのが、初だった。

 そして、何よりすごいのが、初の頭の良さだった。勉強は超進学校というのに、高校一年の時からトップの座を譲ったことがなかった。

 そして特記すべきものとしては、高校生というのに、すでにトップモデルとして世界へ羽ばたいていた。

 文武両道、眉目秀麗、四文字熟語にしたら、そんな感じの真井初。

 でも、一番しっくりくるのは、秀外恵中。

 頭が良くて、容姿も良い、という感じの四文字熟語。

 そんな初は、大学を卒業して、一度キッパリとモデルの仕事を辞め、弁護士として大手の弁護士事務所に就職した。そこでも、かなりの優秀さで、若いのに大手の企業や財閥のようなお金持ちを相手にして、信頼されていた。初でないとダメだ、というクライアントもいたくらいで、二十代にしてすごい収入を得ていた。

 モデルの時よりも年収は減ったけど、と言う初はとにかくすごい人。

 すごい人。

 高校の頃、三年間同じクラスだった。知り合い、というだけでも騒がれるのに、友達だった。

 人前に出るのが苦手で、いつも笑っているしかなくて。

 人から頼まれると嫌と言えなくて、いつも、へらへらしていて。

 自分が嫌いだった。

 光の中にいるような、頭も良くて容姿も良い初は、それだけでなく性格も極上に良かった。優しくて、よく気が付いて、物事をはっきり言えて、いつも笑顔。その笑顔も、へらへらしているような顔ではなくて、自然に笑みを浮かべていた。いつも、にこにこしていて、素敵な人。

 そんな初がモデルとして復帰したのは、二十七歳の時。

 復帰する前、最初はデザイナーから熱心に請われて、のこと。いわゆる、パリコレというもので、パリで行われた有名デザイナーのファッションショー。初は事務所に休みをもらって、ステージに立った。初のステージを見たくて、チケットを融通してもらい、休みをもらってパリへ行った。

 すごくカッコ良かった。

 ドキドキした。

 ずっとドキドキしている相手。いつも会っているのに、ドキドキする心は、高校生のころから止められない。

 何度も、初がランウェイを歩くのを見た。だから、ブランクがあっても変わらないのが分かった。

 ショーの最後に、デザイナーが一緒に歩いた相手は初だった。

 それだけでもすごいことだと思うのに、初はいつも同じ態度で、そう? というだけ。

 そんなところも、初の素晴らしいところ。決して偉ぶらなくて、出来た人。

 それから、初は弁護士をやめて、モデルに復帰した。

 あっさりと、職を変えた時はびっくりしたし、初らしくないと思った。初は、やり遂げる人だったし、あまり芸能界に良い印象を持っていなかったからだ。

 そうして、弁護士からモデルへと再スタートを切ったとき、二十七歳。

 再復帰だというのに、初は瞬く間に時の人となった。

 初が表紙の雑誌が並び、外国と共同で出しているような女性誌も、初が表紙となった。ファッションショーに何度も出て、海外へ行くことも多くて。最近ではガールズコレクション、というものにも出て、ランウェイを歩いていた。

 そうして一年近くたち、二十八歳となった初。その初日のことだった。

「初女ちゃん、映画観に行こうよ」

 初から初女ちゃん、と呼ばれてもう十年以上。

 八坂初女、という名前で、長女だから初という字が入っているだけの、ちょっと男っぽいような名前。

 初が身に付けている、スクエア型の黒縁眼鏡はダテメガネ。

 少しグレーっぽい色が入っているからか、顔を隠すのにはちょうど良い感じがする。

 その奥の目が笑って問いかけるのを見て、初女は少し戸惑った。

 誰も都合がつかなかった。初の誕生日のその日には、自分の時間を自分でコントロールできる初女だけが、祝うために待ち合わせ場所に来た。

 二人で会うのは初めてだった。十年以上の友達付き合いがあって、こんなことがなかったのが不思議だと思う。

 いつもは長男長女会のメンバーが誰かしら一緒だったからだ。

 長男長女会、というのは高校時代、三橋一世が作ったものだ。似たような漢字の名前のクラスメイトが、初女を合わせて四人いた。初と一世、初女と一乃。

 今は三橋一乃、となっている一世の妻は高校のころからの付き合いだ。

 以後緩慢に、少しずつメンバーを拡大し、現在のメンバーは総勢六人。

 また、長男長女会のメンバーは付き合いを深くし、長男長女同士の結婚確率が高い。

 一年後輩の有川一意と初子は、高校時代の後輩で初のファン、というところから長男長女会メンバーになった。二人もまた高校時代から付き合い、結婚に至った。

 初と同じ大学の宝井真一、そして一乃と同じ大学の加藤初音は、それぞれ大学時代に長男長女会のメンバーになり、二ヶ月後に結婚式だ。

「映画?」

「あ……えっと、映画じゃなくてもいいけど」

 にこりと笑った顔は極上。

 たまに、女の子や、男の人、そして他の人たちも通り過ぎざまに見ていく。

 きっと、真井初に似ている、もしかして本物? と思っているのだろう。だって、たまに女の子が口元に手を当てて、立ち止まってジッと見るときがある。

「立ち止まってると、目立つね、真井君」

 初女は初のことを真井君、と呼ぶ。

 ずっとそうで、みんなは初とか、はっつん、もしくは初さん、と呼ぶのに初女だけは真井君、だ。

 最初のうち、高校の頃は初でいいよ、と言われたけれど今はそれも言わない。初女の呼び方が直らないからだろう。

「ああ、そうだね。ごめん」

「謝らなくてもいいんだけど。……そうね、映画! 時間つぶしになるか」

 布のトートバッグの中に入っているのは、細長いケーキ。白い生クリームでデコレーションして、苺とベリーでトッピングした甘みを抑えたもの。

 本当はみんなで食べる気だった。前の夜に頑張って作っていると、それぞれに行けなくなったメールが届いた。でもケーキは作ってしまったし、どこかで食べられたら、と思って持ってきたのだ。

 今思えば初と二人きりで、と思う。

 渡して帰ればいいのだろうが、初一人で食べきれるかどうか。

 そう思っていると、困ったように笑い、眼鏡の奥の綺麗な二重目蓋が瞬きをして、首を振る。

「時間つぶしとか、そんなんじゃないよ。初女ちゃんと、一緒に観たいと思っただけ」

 間が持たない気がする。

 さっきから二人きりは初めてだから、何を話していいかわからない。

 初女はもともとそんなに人前に出る方ではない。休みの日は、何もなければ一日家で過ごすことが多い。溜まっていた録画番組を見たり、映画を見たり、ストレッチをしたりして過ごす。

 間が持たない気がするのは初女だけだろうか、と思いながら三十六センチも上にある顔を見上げる。

 初の身長は百八十八センチ。初女の身長は百五十二センチ。やや小さめで、ちょっと細すぎ、胸も小さめ。

 初と並ぶと、小人みたいに思える。

「ところで、そのバッグの中身、なに?」

「え? あ……」

 初がバッグの縁に人差し指をひっかけて少し開く。

 顔を近づけて見たからだろう、すぐに何か気付いたようだ。

「ケーキ? いつも作ってくれるやつ?」

 長男長女会のメンバーの誕生日会が出来るときは、必ずケーキを作って行っていた。

 持ち込みが出来る場所へ行き、ケーキを出していた。

「買い物、行こ?」

 にこりと笑った初は、初女のトートバッグを持ち上げた。

「え?」

「俺の家で、これ食べて、ご飯食べよ? テイクアウトの店行って、酒買って、一緒にいようよ」

 そうして初女の手を取って初は歩き出す。

 普段二人きりにならない相手。

 いつも、初女のことを気遣ってくれる初。

 今日も気遣ってくれたのだろう。きっと間が持たないから、こう言ってくれたのだろう。

 引っ込み思案で、言いたいことが上手く言えない初女。

 だからいつも、長男長女会のメンバーは、初女に気を遣っていた。

 今日限りで、長男長女会の集まりには、顔を出さないと、そう決めていた。

 顔を出さない、集まりの誘いがあっても断りを入れる、そう決めたのはほかにも理由がある。

 仲の良い友達は一握りで、長男長女会のメンバーのみ。

 その中の良い友達はすべてと言っていいほど結婚した。初と初女だけが結婚していないが、初は芸能界の誰かと結婚するだろう。いつも誰かの影が隣にある初だから、結婚はいつでもできるはずだ。

 論外なのは初女のみ。

 初女は引っ込み思案なだけでなく、あまり外を出歩かないし、今の独立した職業は翻訳家だ。

 周りのみんなが頭が良かったため、ついて行くのも必至で、努力して今の職業についたのだ。周りからは、教養高い女に見えるだろうけれど、要領が悪く毎日努力をしていて、実は仕事がそんなに早くない。

 みんな、性格も明るく、それなりに素晴らしい職業に就いた。

 弁護士、検事、外交官、警察官、など。

 お堅い職業だとみんなは言うけれど、そうは思わない。

 自分だけが何となく特筆すべきないところがあるから、頑張って今のようになっただけ。

 翻訳家という仕事もすごい、と思うこともあるけれど、周りと比べてしまう自分が暗くて情けない。

 だから、もう来ないと、そう決めた。

 初と会うのも、これが最後。

 

 

 テイクアウトの店は、アメリカナイズされた中華のお店。

 映画とか、海外ドラマに出てくるような四角の箱に入ったチャーハンや惣菜。

 それからピザと、お酒と、初女が作ったケーキ。

 用意した、二と八のろうそくを立てて、初の二十八歳最初の日を祝った。

 ハッピーバースデイの歌を歌って、ろうそくの火を消してもらったあとは、ケーキを切り分けて、食事タイム。

 もともとそんなに飲めないが、ほろよい系のカクテルは飲めるので、そのプルトップを開けて飲んだ。

 初は自宅に置いてあったワイン。

 初の自宅は広くてセキュリティも完備されていて、綺麗。

 掃除が出来ない時が多いから業者を入れているらしく、行き届いた綺麗さだった。

「真井君、ペースいっつも早い」

 少し酔った勢いで笑いながら言うと、白ワインをのみながら初女に視線を移す。

「そうかな。だって、ワインくらいじゃ酔わないから。初女ちゃんと二人で飲むの初めてだから、自粛してます」

「自粛?」

「そう、自粛。ウィスキー飲まないし、ウォッカ飲まないし、焼酎飲まないし自粛してるよ?」

「今日はワインだけ?」

 少し首を傾げて、少し声を出して笑って、だね、と言った。

「ワインだけにする。酔って醜態は見せたくないので」

 そう言って笑いながら赤いワインを飲む。

 ワインセラーと言うには少し遠いが、それ専用の冷蔵庫があって、いつも二十本ほど常備している。お酒好きの初らしいことをしているな、と思っていた。

「お酒飲むのに太らないね」

「長風呂とジムと、食生活で何とかね。ジムは欠かせないし、身体が資本だから。もともと太らない体質だけど、だからと言って好き放題は出来ないしね。弁護士の時と違って」

 でも、と言ってワインを飲んで溜め息。

「ジャンクフード大好きなんだ。なんで世の中あんなものがあるんだかね。もう、大好きで、食べたいけど……一年位前から我慢してる。なんで、モデルなんかまた始めたかなぁ、ってマックの前通るたびに思う」

「今日、ピザ食べてるよ?」

「今日は誕生日。だから特別だ。初女ちゃんもいるし」

 にこりと笑って、向かい合ってこんな近くで飲むのは初めて。

 いつも初から離れている。傍にいるとなんだか気おくれしてしまうから。

 でもいつの間にか傍に来ていることが多い。そしてまた席を離れての繰り返し。

 初だけでなく、長男長女会のメンバーにはいつも気おくれ。本当に、みんなに釣り合うように努力して今の職業に就いたけれど。でも、釣り合うように努力してよかった面もある。ずっと続けられる仕事だから。

「明日、お仕事はないの?」

「オフだよ。今日から三日間オフにしてもらった。誕生日休み欲しいって言ったら、マネージャーが都合してくれて。……今日はみんな集まれなかったけど、初女ちゃんが来てくれて嬉しいよ」

 嬉しいって、と思いながら缶に唇を当てて飲む。

 嬉しいと言ってくれて、初女も嬉しかった。でもこれが最後と決めていて、初女は顔をうつむけた。

「真井君、私が独立したの知ってる?」

「ん、知ってる。すごいなぁ、って思ってた」

 本当にすごい、という風に言ったのを聞いて、そんなことないと思う。

 本当にすごいのはみんなだと思う。特に初は秀でているけれど。

「でね、仕事忙しくなるの。これから、長男長女会のメンバーとも会えなくなるかも。連絡も、ちょっと滞るかな……。独立したから仕事がんばらなきゃいけなくて。連絡がつかなくなっても、ちゃんと生きてるから。……それと、引っ越しもしなきゃいけなくて。今よりも少し安くて手狭なところに、引っ越すんだ」

 綺麗な二重目蓋が瞬きをした。ワイングラスをテーブルに置いて、初女の名を呼ぶ。

「なんか、いなくなるみたいなこと言うね」

「いなくなるんじゃないってば。私、お仕事頑張らないとダメなの。お仕事優先じゃないと、食べて行けないし。もともと苦手だった人付き合いから少し解放されるから、その分、ね」

 独立は人付き合いのせいもあった。

 出版社に勤めて、翻訳以外の仕事もした。

 だからこそ力になったから、会社には感謝している。

 そして、長男長女会に顔を出さない理由にもなる。

「……分かるけど、連絡がなくて会えないのは、嫌だから」

「電話あるよ。メールして」

「俺、初女ちゃんが携帯変えて、メールアドレス知らない。ラインも、初女ちゃんしてないし。みんなから言われても、いつも笑って苦手だからって」

 初と直接連絡することはほとんどと言っていいほどなかった。だから二年近く前に携帯電話を変えた時、初にメールアドレスを教えなかったな、と思い出した。

「何回言っても教えてくれなかった。他のメンバーも知らないって人、いるし」

「だって、真井君にメールすることないでしょ?」

 あ、と思ったけれど、言ってしまった言葉は取り消せない。

 初の表情が固まるのを見て、しまった、と思う。

「ごめんね。でも、ほとんどメールも電話もしたことないし。真井君も、私にしないでしょ?」

 顔を反らして言うと、初がテーブルを動かした。

 ラグの上に座って、小さなテーブルを出していた。初女の後ろはソファーで、背もたれ代わりに使っていた。テーブルがなくなると一気に初との距離がさらに近くなる。

「しないんじゃなくて、したくてもできなかった。初女ちゃん、俺のこと避けてる。最初から、高校の時から、ずっと。俺のこと、嫌いじゃないのは分かってるけど、さすがに今回は傷つくよ」

 真剣な顔をしてそう言われて、ちょっと怖くなる。手にしていた缶を置いて見上げると、初は初女の髪の毛を触った。

「高校の時から、好きな女に避けられまくってて、だから好きじゃない人に手を出すしかなくて。今もずっとそう。もう十年以上、ずっとだ。で、今回やっと二人になれた。いつも、二人になろうとするのが、わかるのか知らないけど断られてたし」

 初と二人になろうとしたことはたくさんあった。

 そういう感じの時は、私も来ない、と言っていた。

 今回は、たまたま、偶然に初と二人きりになった。

 高校の時から好きな女に、というくだりを聞いて、まさか、と思う。

 何度も違う、と思うが初女のことのようにしか思えない。

 普通の女で、人付き合いが苦手で。

 彼氏を作ろうと思ったときがあって、そして彼氏が出来て。出来たら出来たで、身体の関係を一回持ったあと、別れられた。面白みがなくて、セックスも良くない、と言われた。二回目の彼氏も同様で、それでも半年付き合ったが、別れを切り出された。一緒にいても楽しくない、と。

 最初の彼氏は、捨てられた感があったし、全て初めてだった。

 そういう思いも長男長女会の人に話せなかった。もちろん、彼氏がいたことも内緒にしていた。だから、初女に誰も彼氏がいたなんてことは知らないはずだ。

 特に初には、彼氏が出来たなんて、話せなかった。

 憧れていて、誰にも分け隔てなく優しくて気さくで、人気者の初には。

 だから、こんな初女だからまさか、と思う。

「今日は、もう我慢するのはよそうと思ってたんだ。みんなに、協力してもらった。初女ちゃんと一緒に過ごせるように」

 初女と一緒に過ごせるように、という言葉は結構衝撃だった。

「初女ちゃんが、ずっと好きだ。付き合ってほしい」

「付き合わない」

 即答だった。

 だって、初女は確かに初のことを思っている。

 でも、初は初女が隣にいて似合うような人ではない。

「真井君、芸能人だし。世界的にも有名なモデルが、こんな、あんまり可愛くない私となんて、ダメだよ」

「初女ちゃんは、最初から可愛いよ。なんでそんなこと言うのかな……モデルに復帰したのは、初女ちゃんがすごくカッコイイって言ったから。デザイナーに懇願されて出たショーの時、一乃と一世と一緒に、見に来てくれた。あの時、君がカッコイイって、すごく顔を紅潮させて……あんな笑顔を俺に見せたのは初めてだった。初女ちゃんがそうやって笑顔でいてくれるなら、また復帰しようって、そう思った」

 確かにカッコイイ、と何度も言った。

 だって本当にカッコよかったのだ。

 それからほんの三ヶ月後にはモデルに復帰していた。

 復帰がそんなに簡単なことじゃないって、何となくわかる。でも初はそれを難なくやってのけるから、さすがだと思った。そんな初だから、余計に思う。

 似合わない、と。

 それに、怖い。

 今まで十年以上もずっと友達だった。

 もしも、と思うのだ。

 もしも、今まで付き合った二人の男の人のように、面白くない、セックスよくないなんて言われたら、と思う。

「私、面白くないし。付き合っても、楽しくないし……真井君を満足させられないと思う」

「それは、初女ちゃんが決めることじゃない」

 身体が近づく。

 逃げようと思っても逃げられないのは、後ろのソファーのせいだ。

 瞬きをして、は、と息を吐くと頬に触れられた。

 キスをされると思った。

「ずっと見てたのに、そんな面白くないとか、楽しくないとか、そういうことで初女ちゃんを評価しない。ずっと、見てたんだよ。欲しくて堪らないくらい」

 言われながら初の顔が近づく。

 瞬きをしなければ直視できないほど、素敵な顔が近づく。

 近くで見ても、顔が小さい。頭も小さくて、初は何頭身なのかとおもうくらい、素晴らしいプロポーション。

 神様がそうやって作ったのだと、思うくらい。

 唇が柔らかく触れた。

 キスはあまり好きじゃなかった。唇を這う、感触が好きじゃなかった。

 でも初の唇はそうではなく、柔らかく触れ、それから唇をゆっくりと啄むように触れた。

 それから、ゆっくりと唇が深く重なる。まるで初女の警戒心を解くように。

 でも、こうやって唇を重ねる相手じゃない、という思いが初女を動かした。

 だって、初はきっと初女を捨てるに決まってる。

 トラウマかもしれないが、面白みも何もない初女だから、そう思う。

「はな、して!」

 身体を押すと、唇が離れる。

「初女ちゃん」

 でも大きな手が初女の肩を掴むので、ちょっと暴れた。

 離してほしいから。

「……った!」

 初女は目を見開く。

 知らず、初の唇のあたりを引っ掻いたらしい。

 血が出ていて、その部分を手で押さえているのを見て、やってしまった、と思う。

 初は、容姿を売りにしている仕事をしているのに。

「ご、ごめんなさい!」

 ただ謝って、でもこの場所にいられないと思って。

 初女はバッグを持って靴を履いて、全力で。

 逃げた。

 

 

☆私の小説、ネガティブな人多いなぁ。

 ごめんなさい。

 読みごたえあれば、拍手、コメントをお願いします。

 二話目は初視点、かな?

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【2013/10/15 16:10】 | 秀外恵中 | トラックバック(0) | コメント(6)

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